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設計者が知っておきたいプラスチックの材料特性 第3回:プラスチックの機械特性(1)

全8回に渡って技術士の田口先生による連載「設計者が知っておきたいプラスチックの材料特性」を掲載いたします。第三回は「プラスチックの機械特性(1)」です。

<目次>

1.はじめに

2.応力-ひずみ曲線(S-S曲線)

3.応力-ひずみ曲線でわかる機械特性

4.主なプラスチックの応力-ひずみ曲線

 

1.はじめに

今回からプラスチックの機械特性について2回にわけて解説していきます。プラスチックは金属材料と比べると強度や剛性などの機械特性が劣ります。そのため設計段階において、強度面の検討を十分に実施することが重要です。今回はプラスチックの機械特性を知るための基本となる応力-ひずみ曲線について解説します。

 

2.応力-ひずみ曲線(S-S曲線)

プラスチックの機械特性を理解する上で不可欠なのが、図1の応力-ひずみ曲線です。応力(Stress)とひずみ(Strain)の英語の頭文字を取って、S-S曲線とも呼ばれます。この曲線は材料に荷重を加えたとき、発生する応力とひずみの関係をグラフに示したものです。荷重には引張荷重や曲げ荷重、ねじり荷重など様々なものがありますが、引張荷重によって測定することが最も一般的です。引張荷重の場合、応力とひずみは図1の式3-1、3-2を使って計算することができます。

図 1 応力-ひずみ曲線(S-S曲線)

材料力学では、すべての材料はフックの法則に従う弾性体であると仮定されます。フックの法則とは、力と伸びが比例関係になることです。力と伸びが比例するということは、力を断面積で割った応力と伸びを元の長さで割ったひずみも比例することになります。したがって、フックの法則に従う材料は図1の点線で示すように、グラフが一直線になります。このような変形のことを弾性変形、弾性変形する材料を弾性体といいます。弾性体であればグラフは一直線になるため、わざわざ応力-ひずみ曲線を描く必要はありません。直線の傾きさえわかればグラフが決定するからです。しかし、実際には完全な弾性体は存在せず、材料ごとに様々な曲線になります。材料がどのような特性を持っているかを把握するために、応力-ひずみ曲線が必要になるのです。特にプラスチックは種類や各種条件の違いにより、曲線の形が異なりますので、他の工業材料と比べても応力-ひずみ曲線はとても重要だといえます。

 

3.応力-ひずみ曲線でわかる機械特性

応力-ひずみ曲線は材料の種類や試験条件によって、様々な曲線になります。例えば図2のような曲線の材料の場合、いくつかの重要な情報が読み取れます。①の範囲は曲線が直線状に伸びていますので、弾性変形だとみなせる範囲です。つまり材料が弾性体と仮定することができる範囲です。材料力学の計算式はフックの法則に従うことが前提ですので、この範囲を大きく超えた場合、強度計算の精度は落ちてしまいます。②は材料が弾性変形範囲を超えて塑性変形をしてしまう範囲です。③の傾きは縦弾性係数(ヤング率)、すなわち材料の変形のしにくさを表します。④は試験中に材料に加えられる最大応力、⑤は材料が破断したときの応力です。そして⑥は材料が破断するまでの伸び(ひずみ)の大きさを示します。これらを見ることによって、材料の機械特性が理解できるようになります。

図 2 応力-ひずみ曲線でわかること

応力-ひずみ曲線の形を見ると、材料特性を大方理解することが可能です。図3を見ながら解説しましょう。まず、材料の(1)変形のしにくさ/強さが分かります。弾性変形範囲の傾きは縦弾性係数(ヤング率)を表すため、傾きが大きい材料は変形しにくい材料です。また、最大応力や破断時の応力が大きい材料は強い材料だといえます。次に分かるのが、(2)の破断するまでに大きく変形する延性材料なのか、ほとんど変形せずに破断する脆性材料なのかです。延性材料と脆性材料を明確に分ける基準はありませんが、使用する材料がどちらの傾向にあるのかを知っておくことは極めて重要です。一般に、脆性材料は予兆なく突然破壊してしまうことや、材料強度のばらつきが大きいこと、衝撃強度が低いことなどから工業製品に使う材料としては適していません。(3)が降伏点と呼ばれる小さな山が曲線上に出る材料か出ない材料かです。このこと自体が材料特性に大きな違いを及ぼすわけではありませんが、次回解説する引張特性を定義する際に知っておく必要があります。

図 3 応力-ひずみ曲線でわかる機械特性

 

4.主なプラスチックの応力-ひずみ曲線

 図4に示すように各プラスチックの応力-ひずみ曲線は種類によって様々です。たとえば、PS(ポリスチレン)やPMMA(ポリメタクリル酸メチル)はほとんど伸びがない脆性材料であることが読み取れます。また、PA6(ポリアミド6)やPOM(ポリアセタール)、PC(ポリカーボネート)はとても強い上によく伸びることがわかります。ただし、プラスチックは温度や吸水率、試験条件の違いによって曲線が大きく変化します。図4に示す各プラスチックの曲線も、ある特定の試験条件における形にすぎないことは理解しておく必要があります。

図 4 主なプラスチックの応力-ひずみ曲線

次回(第4回)は機械特性の2回目として、引張特性、曲げ特性、耐衝撃性について解説します。

田口技術士事務所 田口 宏之  

たぐち ひろゆき:大学院修士課程修了後、東陶機器㈱(現、TOTO㈱)に入社。12年間の在職中、ユニットバス、洗面化粧台、電気温水器等の水回り製品の設計・開発業務に従事。商品企画から3DCAD、CAE、製品評価、設計部門改革に至るまで、設計に関する様々な業務を経験。特にプラスチック製品の設計・開発と設計業務における未然防止・再発防止の仕組みづくりには力を注いできた。それらの経験をベースとした講演、コンサルティングには定評がある。また、設計情報サイト「製品設計知識」やオンライン講座「製品設計知識 e-learning」の運営も行っている。

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