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設計者が知っておきたいプラスチックの材料特性 第5回:プラスチックの熱特性(1)

全8回に渡って技術士の田口先生による連載「設計者が知っておきたいプラスチックの材料特性」を掲載いたします。第5回は「プラスチックの熱特性(1)」です。

<目次>

  1. はじめに
  2. 温度特性
  3. ガラス転移温度/融点
  4. 荷重たわみ温度

 

1.はじめに

プラスチックのほとんどの材料特性が温度変化に大きな影響を受けます。品質の高いプラスチック製品を設計するためには、プラスチックの熱特性をしっかり理解することが不可欠です。今回はプラスチックの熱特性の1回目として、温度特性、ガラス転移温度/融点、荷重たわみ温度について解説します。

 

2.温度特性

プラスチックは金属材料のように高温にしなくても、少し加熱するだけで流動するようになるため、複雑な形状でも容易に成形することができます。これはプラスチックが工業材料として多くの製品に採用されている大きな理由の一つです。一方、それほど高い温度にしなくても流動するようになるということは、使用環境温度が少し変化しただけで、材料特性に大きな影響を与えることになります。機械特性を例に考えてみましょう(図1)。

図 1 プラスチックの温度特性(機械特性)

短期的な影響としては、温度が上昇すると応力-ひずみ曲線が平べったく変化するため、引張弾性率や引張強さが小さくなります。一方、よく伸びるようになり耐衝撃性が向上します。長期的な影響としては、耐クリープ性、耐劣化性、耐疲労性などが温度上昇とともに低下します。プラスチック製品の設計において重要なことは、製品の使用環境温度の上下限温度を明確に設定することです。物性表に記載されている特性の多くが室温で測定されたものですから、室温から大きく変化した状況で使用される製品の場合には、上下限温度におけるそれぞれの材料特性を入手しなければなりません。

3.ガラス転移温度/融点

 プラスチックは温度が変化すると、引張弾性率や破断時の伸びなど様々な材料特性が変化します。材料特性は温度に比例して変化するのではなく、特定の温度付近で急激に変化します。プラスチックを低温の状態から温度を上げていく場合を考えてみます。温度が低い状態では、プラスチック中の結晶部分も非晶部分も自由に動くことができず、柔軟性が低い状態(ガラス状態)です。温度を上げていくとある温度付近で非晶部分が動き出すようになります。このときの温度をガラス転移温度といいます。非晶性プラスチックは分子構造に結晶部分がないため、ガラス転移温度を超えると、急激に軟らかくなります。一方、ガラス転移温度を超えても、結晶部分はまだ動かないため、結晶性プラスチックは硬さを維持しています。さらに温度が上昇し、結晶部分も自由に動くようになる温度を融点といいます。融点を超えると結晶性プラスチックも急激に軟らかくなります。

図 2 ガラス転移温度/融点

図3に各種プラスチックのガラス転移温度と融点を示します。一般にガラス転移温度が高い材料ほど、融点も高くなります。融点が高いプラスチックは耐熱性も高いといえますが、融点自体が使用上限温度を示すわけではないので注意してください。また、融点が高いプラスチックは成形温度を高くする必要があるため、生産上の注意点が増えます。ガラス転移温度を下回ると、プラスチックの柔軟性は急速に低下します。冷凍庫に入れたポリプロピレン(PP)製の容器がもろく割れてしまったという経験をしたことがないでしょうか。PPはガラス転移温度が-20~0℃と、ちょうど冷凍庫内の温度と同じぐらいです。常温では柔軟性があるPPも冷凍庫中ではもろくなってしまうことがあるのです。

非晶性プラスチックは結晶構造がないため明確な融点は存在せず、ガラス転移温度だけを持ちます。ガラス転移温度付近で引張弾性率の低下が顕著になり、実用に耐えられなくなります。ガラス転移温度は使用上限温度を示す値ではありませんが、高いほど耐熱性が高い材料だといえます。

図 3 各種プラスチックのガラス転移温度/融点※1

4.荷重たわみ温度※2

プラスチックが急速に軟化し始める温度の目安が荷重たわみ温度です。試験片に曲げ荷重を加えた状態で周囲の温度を上昇させ、規定たわみ(曲げひずみの増加分が0.2%)に達したときの温度を示しています。

図 4 荷重たわみ温度

荷重たわみ温度の試験方法には3種類が規定されていますが、1.80MPaの応力を生じさせるA法と、0.45MPaのB法のどちらかを使用するのが一般的です。同じプラスチックでも試験方法の違いによって値が異なるため注意が必要です。また、規定たわみは試験片のサイズによって異なります。よく使用される試験片である80mm×10mm×厚さ4mmの場合、規定たわみは0.34mmです。

図5に各種プラスチックの荷重たわみ温度を示します。荷重たわみ温度を比較する際は、試験条件を合わせることが重要です。A法とB法では、A法の方が荷重たわみ温度は低くなります。A法の方がB法より荷重が大きく、低い温度で規定たわみに到達するためです。結晶性プラスチックはA法とB法の差が大きくなる傾向にあります。一方、非晶性プラスチックはA法とB法の差が小さい傾向にあるため、A法だけ測定されることが一般的です。荷重たわみ温度を材料の使用上限温度だと勘違いしないようにすることが重要です。あくまで短期的な耐熱性を示す指標にすぎません。材料特性が変化する温度の目安やプラスチック同士の耐熱性比較などに活用するとよいでしょう。

図 5 各種プラスチックの荷重たわみ温度※1

次回は熱特性の2回目として、線膨張係数、酸素指数、UL94燃焼性試験について解説していきます。

 

<参考資料>

※1 材料メーカーカタログ等より筆者作成。値は代表値を示す。グレード、試験条件等により変動する。

※2 JIS K7191-1~3:2015 「プラスチック-荷重たわみ温度の求め方」

田口技術士事務所 田口 宏之  

たぐち ひろゆき:大学院修士課程修了後、東陶機器㈱(現、TOTO㈱)に入社。12年間の在職中、ユニットバス、洗面化粧台、電気温水器等の水回り製品の設計・開発業務に従事。商品企画から3DCAD、CAE、製品評価、設計部門改革に至るまで、設計に関する様々な業務を経験。特にプラスチック製品の設計・開発と設計業務における未然防止・再発防止の仕組みづくりには力を注いできた。それらの経験をベースとした講演、コンサルティングには定評がある。また、設計情報サイト「製品設計知識」やオンライン講座「製品設計知識 e-learning」の運営も行っている。

「製品設計知識」:https://seihin-sekkei.com

「製品設計知識 e-learning」:https://seihin-sekkei.teachable.com

 

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