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設計者が知っておきたいプラスチックの材料特性  第1回:プラスチックの物理特性(1)

今回より、全8回に渡って技術士の田口先生による連載「設計者が知っておきたいプラスチックの材料特性」を掲載いたします。第一回は「プラスチックの物理特性(1)」です。

 

目次
1. はじめに
2. プラスチックの物性表
3. 物性表を見る際の注意点
4. MFR/MVR
5. MFR/MVRと分子量

1. はじめに

現在、企業間の競争は熾烈さを極めています。市場で勝ち残るために、多くの企業が乾いた雑巾を絞るような努力を続けています。設計者には「1円でも安く」「1gでも軽く」といった要求に応えることが強く期待されていることでしょう。

そのような要求に応えるための有効手段の一つがプラスチックの活用です。プラスチックは形状の自由度の高さや軽さなど多くのメリットがあります。これまで金属材料を主に使ってきた設計者にとっても、プラスチックを使うケースが増えているのではないでしょうか。多くのメリットがある反面、プラスチックには様々なデメリットもあります。品質の高いプラスチック製品を設計するためには、プラスチックの材料特性についてしっかり学ぶ必要があります。
本講座では全8回に渡って、設計者が知っておきたいプラスチックの材料特性についてわかりやすく解説します。

2. プラスチックの物性表

プラスチックの材料特性を知るために、まず物性表を確認するという方が多いと思います。

一般に図1のような項目が掲載されています。物性表にどのような項目を掲載するかについてのルールはありません。そのプラスチックがどのような用途向けに品揃えされているかによって、物性表に掲載される項目が変わります。本講座では第1回~第6回まで図1の物理特性、機械特性そして熱特性について解説していきます。また、粘弾性特性や劣化といった物性表に載ることが少ないプラスチックの応用特性についても、第7回、第8回で取り上げます。

図 1 物性表に掲載されることが多い材料特性の例

3. 物性表を見る際の注意点

プラスチックは図2のように複雑なプロセスを経て材料特性が決まります。

図 2 材料特性の決定プロセス

物性表は材料メーカーから入手することが多いですが、もしコンパウンドメーカーや成形加工メーカーで配合剤を加えているのであれば、その配合内容によって材料特性が変わることをしっかり理解しておくことが重要です。また、製品形状や金型仕様、成形条件などによっても材料特性が変化するため、プラスチック材料メーカーはその数値を保証することができません。

そのため、物性表の備考欄には必ず「保証値ではない」旨の注意書きがあります。

4. MFR/MVR※1

それでは物性表に掲載されることが多い基本的な材料特性について、物理特性から見ていきましょう。

MFR(メルトマスフローレイト)、MVR(メルトボリュームフローレイト)は共に溶融プラスチックの流れやすさ、すなわち流動性を示す指標です。図3のようにプラスチックを加熱して溶融させ、ピストンヘッドでダイから押出します。その吐出量で評価されるのがMFRとMVRです。10分間に吐出する「質量」で評価するのがMFR、「体積」で評価するのがMVRです。どちらも同じ流動性を評価する指標であるため、どちらか一方の値を確認できれば問題ありません。MFR/MVRが大きいほど溶融時の流動性が高く、金型内の小さな隙間に容易に入り込むことができます。一般に成形しやすい材料だといえます。

図 3 MFR/MVR

5. MFR/MVRと分子量

 MFR/MVRの大きな材料の方が成形しやすいのであれば、常にそれらが大きい値の材料を選べばよいかというとそうではありません。MFR/MVRとプラスチックの材料特性には密接な関係があるからです。

プラスチックは分子が長くつながったものが複雑に絡み合った構造をしています。パスタの麺が絡み合ったような状態です。パスタの麺が十分長くて、しっかりと絡み合っていれば高い強度を持つことがイメージできると思います。パスタから麺を1本取り出し、その重さを測ったものが分子量です。同じ種類のプラスチックであれば、分子量が大きいほど麺は長くなります。麺が長くなると絡み合いが増えるため各種材料特性が向上します。一方、絡み合いが増えると溶融プラスチックの流動性が低下するため、MFR/MVRが小さくなります。分子量は非常に重要な指標ですが、物性表には掲載されていないことが一般的です。そこでMFR/MVRを見ることにより、材料同士の分子量の大きさを比較することができます。同じプラスチックでも流動性と材料特性のバランスを考慮し、MFR/MVRの異なるグレードが準備されています。

図 4 プラスチックの構造と分子量

分子量が上昇(MFR/MVRが低下)したときに向上する材料特性を図5に示します。各種機械特性や耐薬品性、耐熱性が向上します。ただし、分子量が大きくなるとどこまでも材料特性が向上するわけではなく、ある程度のところで頭打ちになります。また、プラスチックは劣化すると分子が切断、すなわちパスタの麺が短くなり分子量が低下します。MFR/MVRの変化量を測定すれば、劣化の程度を推定することが可能です。

次回(第2回)は物理特性の2回目として、成形収縮率、密度/比重、吸水率について解説します。

 

<参考資料>
※1 JIS K7210-1:2014 「プラスチック-熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の求め方-第1部:標準的試験方法」

田口技術士事務所 田口 宏之  

たぐち ひろゆき:大学院修士課程修了後、東陶機器㈱(現、TOTO㈱)に入社。12年間の在職中、ユニットバス、洗面化粧台、電気温水器等の水回り製品の設計・開発業務に従事。商品企画から3DCAD、CAE、製品評価、設計部門改革に至るまで、設計に関する様々な業務を経験。特にプラスチック製品の設計・開発と設計業務における未然防止・再発防止の仕組みづくりには力を注いできた。それらの経験をベースとした講演、コンサルティングには定評がある。また、設計情報サイト「製品設計知識」やオンライン講座「製品設計知識 e-learning」の運営も行っている。

「製品設計知識」:https://seihin-sekkei.com

「製品設計知識 e-learning」:https://seihin-sekkei.teachable.com

 

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