設計部門の品質向上 第1回 品質を向上させるための考え方

設計
2021年10月21日


今回より、技術士の田口先生に「設計部門の品質向上」についての講座を連載いただきます。
製品・部品の設計を行っている方が、品質において「当たり前」とすべき基準とはどのようなものか?現状からどのように向上させていくべきか?等、わかりやすく解説します。

 

 

田口技術士事務所 田口 宏之

 

 たぐち ひろゆき:大学院修士課程修了後、東陶機器㈱(現、TOTO㈱)に入社。12年間の在職中、ユニットバス、洗面化粧台、電気温水器等の水回り製品の設計・開発業務に従事。商品企画から3DCAD、CAE、製品評価、設計部門改革に至るまで、設計に関する様々な業務を経験。特にプラスチック製品の設計・開発と設計業務における未然防止・再発防止の仕組みづくりには力を注いできた。それらの経験をベースとした講演、コンサルティングには定評がある。また、設計情報サイト「製品設計知識」やオンライン講座「製品設計知識 e-learning」の運営も行っている。
「製品設計知識」:https://seihin-sekkei.com
「製品設計知識 e-learning」:https://seihin-sekkei.teachable.com

<目次>

  1. はじめに
  2. 品質とは何か? ISOの定義
  3. 品質とは何か? 狩野モデル
  4. 当たり前品質を確保できないとどうなるか
  5. 今、企業に求められる品質

 

1.はじめに

製品の不具合は通販サイトの口コミやSNSで瞬く間に拡散していきます。公的機関による製品事故やリコールの情報公開も進みました。設計部門の皆様は、品質向上に関してこれまでにないぐらいのプレッシャーを感じているのではないでしょうか。一方、品質向上のための手法やツールなどを色々試してはいるものの、なかなかうまくいかないという話をよく聞きます。そこで、本講座では実際に品質向上のための仕組みづくりに奔走してきた著者が、4回に渡って設計部門の品質向上の考え方や手法などについて分かりやすく解説していきます。第1回目の今回は、品質を向上させるためのベースとなる考え方について解説します。

 

2. 品質とは何か? ISOの定義

「品質とは何か?」と聞かれたときにどのように答えるでしょうか。わかりそうな気がするけど、うまく答えられないという方も多いと思います。私もセミナーなどでたくさんの方に質問していますが、明確に答えられない方が多い印象です。これだけ「品質第一」「品質向上」「品質改善」などといいながら、品質とは何かということが不明瞭であることは、少し意外なことだと感じます。それでは品質とは何なのか、身近な製品として椅子を例に考えていきたいと思います。

図 1 椅子の品質とは?

 

椅子の品質をいくつか挙げてみてください。

 

どのような品質を思いついたでしょうか。壊れにくい、怪我をしない、長く座っていても疲れにくい、デザイン性に優れている・・・。非常にたくさんの品質があることに気づくと思います。ここで、品質を国際規格のISOの定義に従って考えてみましょう。

図 2  ISOの定義

ISOでは品質を「対象に本来備わっている特性の集まりが、要求事項を満たす程度」(ISO 9000:2015)と定義しています。

国際規格特有のいい回しもあり、少しわかりにくいと感じられるかもしれません。しかし、何度も読んでいると少しずつわかってきます。対象とは、ここでは椅子のことです。特性とはクッションの硬さや素材の質感、座り心地などを示しています。そして、要求事項とは、お客様のニーズや期待のことです。したがって、品質とは「お客様の期待を満足させる程度」だということができます。「品質がよい椅子」というのは、耐久性や座り心地などの特性がお客様の期待に十分応えている椅子のことだといえます。

 

椅子に対する期待は人によって違いますし、製品によっても当然異なります。例えば、数万円以上もするような高価な椅子が1年で壊れたら、私であればその品質に失望します。一方、数百円ぐらいの簡易的な椅子が1年で壊れても、「まあ、よく持った方だ」と感じる思います。これは、私がそれぞれの椅子に対して抱く、期待の違いから生じるものだと考えることができます。したがって、品質には絶対的な尺度があるわけではなく、その製品に対して、お客様がどのような期待を持っているかによって変わるということです。ISOの定義は、文章自体はわかりづらいですが、品質の考え方をうまく表現しているといえます。

 

3. 品質とは何か? 狩野モデル

設計者・技術者が品質向上に取組む上で、非常に参考になる考え方が狩野モデル※1です。これは狩野氏らによって提唱された品質要素分類の考え方です。

図 3  狩野モデル

 

縦軸は顧客の満足度、横軸は物理的な充足/不充足を表し、製品やサービスの品質を当たり前品質、性能品質(一元的品質)、魅力的品質に分類します。当たり前品質はなければ大きな不満を感じるが、あっても満足度が向上しない品質。性能品質(一元的品質)はあれば満足度が大きくなり、なければ不満に感じるもの。魅力的品質はなくても不満は少ないが、あれば大変うれしいような品質を示します。

 

椅子の品質をこれらの3つにわけてみました(図4)。これは私が自分の感覚でわけただけで、これが正解だというわけではありません。

図 4  椅子の品質

 

安全性、普通に使える、簡単に壊れないといった基本的な性能については、当たり前品質だと考えられます。これらの品質が十分に確保できない製品は、お客様が強烈な不満を感じることになります。一方、これらの品質を大変な負荷をかけて充足させていったとしても、ある一定以上になると、お客様の満足度は向上しないことを示しています。私は必要以上に当たり前品質にこだわっている企業があるのではないかと日頃から感じています。品質にこだわる姿勢はもちろん重要ですが、それが本当にお客様から求められているのかどうかについて、しっかり判断する必要があります。

充足度が上がるほど満足感が高くなるのが性能品質です。私の経験上、椅子(オフィスチェア)の買い替えタイミングは、クッション材のヘタリと表皮の外観低下です。したがって、ヘタリにくいクッション材や耐久性の高い表皮であれば、大きな魅力を感じます。もしそれらが改善されている椅子であれば、少しぐらい価格が高くても購入します。私にとっての椅子の性能品質だといえます。

椅子の魅力的品質とは何でしょうか。例えば、有名デザイナーの作品であることや簡単に入手することができないビンテージチェアなどでしょうか。魅力的品質はなくても特に大きな不満を感じることはありませんが、あれば人によっては大きな魅力となります。一般的な椅子の数十倍の価格で販売されるようなビンテージチェアは、まさに魅力的品質だといってよいでしょう。

 

4. 当たり前品質を確保できないとどうなるか

狩野モデルで考えると、当たり前品質の向上に力を入れても、お客様の高い満足を獲得することは難しいというのがわかります。では、当たり前品質など無視して、性能品質や魅力的品質の創出だけに力を注げばよいのでしょうか。もちろん、そうではありません。必要な当たり前品質を確保できないと、お客様は強烈な不満を感じます。そのような製品を購入したお客様は、その不満を通販サイトの口コミやSNSなどに書き込むことも考えられます。そして、それらの情報は瞬く間に拡散してしまいます。企業が時間をかけて作り上げた信頼も急速に低下してしまうのです。また、当たり前品質の多くは、安全や健康といった重要な要求事項が含まれています。それらについては、様々な法規制により消費者保護が図られています(図5)。

図 5  消費者保護の仕組み

 

製品に重大な問題がある場合のリコール制度や製品事故情報の公開制度、製品の欠陥により拡大被害を受けた場合の損害賠償請求のルール(製造物責任法)など、消費者保護の仕組みが充実しています。当たり前品質が十分ではない製品を安易に市場に出してしまうと、経営をゆるがすような社会的制裁を受けることになります。決して当たり前品質を軽視してはいけないのです。

 

5. 今、企業に求められる品質

では、今、企業にはどのような品質が求められているのでしょうか。まず、必要な当たり前品質を確保することです。これができなければ、企業として存続することは不可能です。ただし、過剰に追い過ぎてはいけません。過剰な当たり前品質をお客様は付加価値として認めてはくれないからです。一方、当たり前品質だけでは、国内外の競合企業に打ち勝つことはできません。海外企業の当たり前品質が年々向上しています。コストではなかなか太刀打ちできないなか、当たり前品質だけで海外企業と勝負していては、未来はないでしょう。したがって、性能品質や魅力的品質を磨き、競争力を強化していく必要があります。

図 6  今、企業に求められる品質

 

品質向上の取組みをする場合、当たり前品質を向上させるのか、性能品質や魅力的品質を向上させるのかをはっきりさせておくことが重要です。当たり前品質を向上させる方法として、再発防止・未然防止活動、品質管理の強化などがあります。一方、いくら当たり前品質の向上に力を入れても、魅力的品質を向上させることはできません。一般に両者に対する取組みは大きく異なるからです。魅力的品質を向上させるには、マーケティングや新規発想ができる人材の獲得、長期的視野での研究開発などが必要になるでしょう。

今回の4回シリーズの講座は、当たり前品質の向上に向けた取組みについて考えていきます。次回は再発防止活動と未然防止活動について解説する予定です。

 

<参考資料>

※1 狩野紀昭, 瀬楽信彦, 高橋文夫, & 辻新一. (1984). 魅力的品質と当り前品質. 品質, 14(2), 147-156.

 

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