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【設計実務】図面における歯車の表記方法

歯車は、機械において動力伝達、回転数やトルクの変換、運動方向の変更など、多岐にわたる重要な役割を果たす機械要素です。図面上で歯車を正確かつ明確に表記することは、設計意図を正確に伝え、加工や組み立てのミスを防ぐ上で極めて重要です。ここでは、JIS(日本産業規格)に準拠した歯車の図面表記の基本と注意点について解説します。

1. 歯車の図面表記の基本原則

図面において歯車を表記する際には、以下の原則に基づきます。

簡略化された図示: 歯車の全ての歯形を詳細に描くことは稀で、一般的には簡略化された図で表記します。これにより、図面が複雑になりすぎるのを防ぎ、見やすさを保ちます。

寸法の明確化: 歯車の種類、モジュール、歯数、圧力角、歯幅、ハブ径、キー溝などの必要な寸法や特性を必ず記入します。

公差の指定: 必要に応じて、歯車の寸法公差、歯形公差、精度等級を併記します。

基準の統一: 図面全体でJISなどの規格に準拠した表記法を統一して使用します。

2. 歯車の書き方(平歯車を主とした解説)

ここでは最も基本的な「平歯車」を例に、その図示方法と寸法記入について解説します。他の種類の歯車も、この基本を応用します。

図示方法

1.側面図(正面図または側面投影図)

歯先円 (Addendum Circle): 歯の最も外側の円で、太い実線で描きます。

基準円 (Pitch Circle): 歯車の中心を通る想像上の円で、通常は一点鎖線(細線)で描きます。歯車のモジュールと歯数から決まる基本的な円です。

歯底円 (Dedendum Circle): 歯の谷底の円で、細い実線で描きます。

ポイント: 簡略図の場合、歯形そのものは描かず、これらの3つの円と軸穴、キー溝などを描くのが一般的です。

2.軸方向から見た図(側面図または断面図)

歯幅、ハブ部の形状、キー溝の寸法などを描きます。

歯の断面を示す場合は、斜線(ハッチング)で断面部分を強調します。

寸法記入の例

歯車の寸法は、JIS B 0003(歯車製図)JIS B 1702-1〜1702-3(歯車-精度等級)、などに準じて、一般的に以下のように記入します。

種類: 平歯車、はすば歯車、すぐばかさ歯車など、種類を明確に示します。

モジュール (m): 歯の大きさを表す基本単位で、最も重要な情報です。例: m2 (モジュール2)

歯数 (Z): 歯の数を記入します。例: Z=30 (歯数30)

圧力角 (α): 歯面の傾きを表す角度で、通常は20°が標準です。例: α=20°

歯先円直径(da): 歯車の外径寸法を明確にします。例: da = 64.00

歯丈(h): 歯車の歯の高さを指定します。例: h = 4.500

転位係数(X): 歯車の転位係数を設定します。例: X=0

円弧歯厚(S): 歯車の円弧歯厚を設定します。例: S=3.141593

歯幅(b): 歯車の軸方向の幅を寸法線で記入します。

中心距離(a): 2つの歯車を組み合わせる場合、その中心間の距離を記入します。

穴径とキー溝: 軸を通すための穴径と、キーによる固定が必要な場合のキー溝の寸法を記入します。

材質: 歯車の材料記号を記入します。例: S45C、SCM435など

熱処理・表面処理: 焼き入れ、浸炭、高周波焼き入れ、歯面研磨など、必要な熱処理や表面処理を指示します。

精度等級: JIS B 1702-1〜JIS B 1703-3に定める歯車の精度等級を記入します。
例: JIS B 1702 N8級 (8級精度)

3. その他の歯車の書き方と注意点

はすば歯車 (Helical Gear):

歯筋の傾きであるねじれ角(β)を記入します。

歯直角モジュール(mn)または軸直角モジュール(mt​)を指定します。

右ねじれか左ねじれかを明記します。

・かさ歯車 (Bevel Gear):

各部の円錐角(ピッチ円錐角、歯先円錐角、歯底円錐角)、背面距離などを記入します。

かさ歯車は対となる歯車とセットで設計されるため、相手歯車の情報も参照できるようになります。

・ウォームギヤ・ウォームホイール:

歯直角モジュール、ウォームの条数やウォームホイールの歯数、ウォームのリード角などを記入します。

・歯車精度公差:

歯形公差、ピッチ公差、歯すじ公差、振れ公差など、より詳細な精度要求がある場合は、JIS規格に基づいた公差記号や数値を記入します。

4. 歯車表記におけるその他の注意点

歯車のペアリング: 複数の歯車が噛み合う場合は、それぞれの歯車の図面に相手歯車の情報を記載したり、共通の組立図で中心距離などを明記したりします。

バックラッシ (Backlash): 歯車が噛み合う際の隙間を「バックラッシ」と呼び、必要に応じてその許容範囲を図面に記入します。

測定方法: 精密な歯車の場合、特定の測定箇所や測定方法を指示することもあります。

組立上の考慮: 軸穴の公差(はめあい公差)やキー溝の公差も、歯車の機能に大きく影響するため、別途詳細に指示します。

まとめ

歯車の図面表記は、その複雑な形状と機能性から、モジュール、歯数、圧力角などの基本的な情報に加え、精度等級や熱処理、表面処理など、多岐にわたる詳細情報の正確な記入が求められます。JISなどの規格に準拠し、簡略化された図示と明確な寸法記入を組み合わせることで、設計意図を正確に伝達し、高品質な歯車の製造と円滑な組立を可能にします。

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