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設計者が知っておきたいプラスチックの材料特性 第8回:プラスチックの応用特性(2)

<目次>

  1. はじめに
  2. 劣化
  3. 耐薬品性

 

1.はじめに

今回は8回連続講座の最終回です。応用特性の2回目として、劣化、耐薬品性について解説していきます。

2.劣化

プラスチックは金属材料のように腐食しないことが大きなメリットです。一方、金属材料にはない劣化というやっかいな欠点を持っています。劣化とは特性に有害な変化を伴うプラスチックの化学構造の変化※1のことです。図1に示すように劣化の要因には様々なものがあります。その中でも熱、水分、紫外線の3つは身の回りのどこにでも存在するため、すべてのプラスチック製品が何らかの劣化の影響を受けると考えておく必要があります。劣化は時間をかけて進行していくため、特に長期間使用する製品は、劣化による材料特性の変化について十分に検討することが重要です。

図 1 プラスチックの劣化要因

劣化するとプラスチックに何が起きるのでしょうか。劣化の条件によって異なるものの、主に分子鎖の切断、架橋、発色団※2の生成が起き、材料特性の変化や変色などを生じます。

図 2 劣化で起きること

分子鎖の切断は分子量の低下を引き起こします。分子量が低下すると引張強さや耐衝撃性など、様々な機械特性が低下します。劣化により劣化生成物が生じると水分を吸収しやすくなり、体積抵抗率、絶縁破壊の強さといった電気絶縁性が低下します。したがって、劣化はプラスチック部品を使っている電気・電子機器の寿命に大きな影響を与えることになります。また、微小クラックにより白化や光沢度の低下を引き起こすため、外観上のトラブルにもつながります。発色団が生成されると、黄変やピンキングなどの変色を起こします。プラスチックに含まれる配合剤や排気ガスなどとの反応により変色することもあります。

図 3 劣化の影響

劣化を完全に止めることは不可能です。したがって、使用環境条件を明確化し、その条件における適切な材料や配合剤の選定、寿命予測を行うことにより、耐用期間において品質トラブルが起きないように設計をすることが不可欠です。

 

3.耐薬品性

 プラスチックと薬品の組合わせによっては、クラックや外観不良などの品質トラブルに発展します。薬品による影響は、薬品がプラスチックの内部に浸透・拡散することによって生じます。浸透・拡散した薬品は膨潤・溶解を引き起こすことがあります。膨潤・溶解により寸法や質量が変化したり、機械特性が低下したりします。一般に似ている物質同士は混じり合いやすいといわれています。プラスチックと薬品も性質が似ている場合、膨潤・溶解を起こす可能性が高いといえます。性質が似ているかどうかを示す指標の一つがSP値(溶解度パラメータ)です。SP値はプラスチックや有機溶剤などの分子間力を示す指標です。プラスチックと薬品にはそれぞれ固有のSP値があり、それらが近い値の場合、膨潤・溶解などが生じやすくなります。エステル結合やアミド結合などを持つプラスチックは、アルカリ溶液によって加水分解が急速に進行し、強度低下などを引き起こします。また、多くのプラスチックは強酸の影響を強く受け、分子構造が分解されます。

図 4 薬品の影響

プラスチックは、ひずみ(応力)が生じた状態で薬品類が付着すると、通常の材料強度よりもはるかに小さなひずみ(応力)でクラックを生じることがあります。このような現象をソルベントクラックといいます。非晶性プラスチックで発生することが多い現象です。ひずみがなければ何の問題も起こさない薬品類で生じるため、とてもやっかいです。ソルベントクラックは延性材料でも脆性的な破壊形態を示し、破断面はピカピカ光る鏡面状になることが特徴です。

図 5 ソルベントクラック

 ソルベントクラックを防ぐ方法は、ひずみ(応力)の低減、薬品類の接触防止、耐薬品性の高い材料の選定、の3つです。ひずみは成形、組立など様々な場面で生じる可能性があります。接合方法を工夫したり、アニール処理※3を実施したりすることによりひずみを低減します。薬品類が接触しなければソルベントクラックは発生しません。締結用ネジに付着した潤滑油をきれいに除去することや表面被覆により薬品類が接触しないようにすることも対策になります。さらに結晶性プラスチックや耐薬品性の高いグレードを選定することも一つの選択肢です。

図 6 ソルベントクラックの対策

「設計者が知っておきたいプラスチックの材料特性」の8回連続講座、いかがだったでしょうか。プラスチックは様々な要求に応えてくれる非常に面白い材料です。一方、知らないと品質トラブルを招きかねない、いろいろな特性を持っています。本講座で触れることができなかった特性もまだまだありますので、ぜひ、興味を持って学び続けていただければと思います。

 

<参考資料>

※1 JIS K6900:1994 「プラスチック-用語」

※2 カルボニル基など変色の原因となる分子構造。

※3 製品を高温下で一定期間保管することにより、残留ひずみ(応力)を低減させる方法。

田口技術士事務所 田口 宏之  

たぐち ひろゆき:大学院修士課程修了後、東陶機器㈱(現、TOTO㈱)に入社。12年間の在職中、ユニットバス、洗面化粧台、電気温水器等の水回り製品の設計・開発業務に従事。商品企画から3DCAD、CAE、製品評価、設計部門改革に至るまで、設計に関する様々な業務を経験。特にプラスチック製品の設計・開発と設計業務における未然防止・再発防止の仕組みづくりには力を注いできた。それらの経験をベースとした講演、コンサルティングには定評がある。また、設計情報サイト「製品設計知識」やオンライン講座「製品設計知識 e-learning」の運営も行っている。

「製品設計知識」:https://seihin-sekkei.com

「製品設計知識 e-learning」:https://seihin-sekkei.teachable.com

 

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