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ステンレスの熱処理:オーステナイト系ステンレス(固溶化熱処理・応力除去焼きなまし)

オーステナイト系ステンレスの熱処理は、おもに固溶化熱処理と応力除去焼きなましが行われています。これらは、オーステナイト系ステンレスに生じやすい問題を回避するために行われている熱処理です。

 

今回は、「オーステナイト系ステンレス鋼の熱処理」「応力腐食割れの発生原因とその防止策」について解説します。

 

オーステナイト系ステンレス鋼とは

 

オーステナイト系ステンレス鋼とは、一般的に「ステンレス」と呼ばれるSUS304を代表としたステンレス鋼の分類のことです。ステンレスはCrとNiを多く含む鋼種で、主に耐食性を向上させた鋼とされています。

 

オーステナイト系ステンレス鋼の特徴は、他のフェライト系ステンレス鋼と比べて、耐食性や加工性が優れていることです。その用途は、厨房設備、工場や船舶などの配管設備、原子力設備などの広い範囲で使用されます。

 

オーステナイト系ステンレス鋼は、室温では準安定な過冷オーステナイトであるため、加工性や深絞り性に優れています。また、フェライト系のような磁性材料ではないため、磁性を嫌う用途にも用いられます。

 

さらに、低温ぜい性を示さないため、LNGタンクへの利用、強加工を施すと、大きな加工硬化を示すために、ばね材料としても採用されています。

オーステナイト系ステンレス鋼の熱処理

オーステナイト系ステンレス鋼の熱処理は、炭化物の析出による耐食性の劣化からの回復と残留応力除去を目的としています。

 

その方法が、固溶化熱処理と応力除去焼きなましです。

固溶化熱処理(solution treatment)

固溶化熱処理(solution treatment)は、炭化物が析出したオーステナイト系ステンレス鋼を1000℃~1100℃に加熱し、オーステナイト単相の組織となるまで温度保持後、水中で急冷させます。この処理によって、再び炭化物を固相内に溶け込ませることで、粒界腐食などの局部腐食を防ぐ効果があります。

 

しかし、変態点以上で加熱するためにオーステナイト単相の結晶が粗大化してしまい、耐食性には優れているものの軟らかくなり、引張強さは低下してしまいます。

応力除去焼きなまし

 

オーステナイト系ステンレス鋼の残留応力除去を目的とする場合は、応力除去焼きなましが行われます。応力除去焼きなましは、通常の焼きなましより低い温度で焼きなましを行うため、低温焼きなましとも呼ばれます。しかし、450℃~850℃の温度範囲では、炭化物が析出してしまうため、炭素鋼よりも焼きなましの温度が高い850℃~900℃で焼きなましを行います。

 

オーステナイト系ステンレス鋼の応力腐食割れの原因

 

利用用途の広いオーステナイト系ステンレス鋼ですが、「応力腐食割れ」(Stress Corrosion Cracking:SCC)と呼ばれる材料や製品にき裂が入ったり、破断してしまったりといた問題が生じることがあります。

 

応力腐食割れは、オーステナイト系ステンレス鋼を利用した構造物等が、局部的に濃縮した塩化物イオンや酸化物イオンによって材料が腐食され、残留引張応力を受けた際に、材料がもろくなり、ある時間経過後にき裂や破断にいたってしまう現象のことです。

 

このような問題が生じるのは、オーステナイト系ステンレス鋼は450℃〜850℃の温度範囲に加熱されると、炭化物M23C6が析出するためです。この近傍では、耐食性に寄与するCrが炭素と結合しCr炭化物となるため、Cr量が不足してしまいます。

このようにオーステナイト系ステンレス鋼は、加工履歴や熱履歴によって、Cr炭化物が析出し、耐食性が低下してしまう結果、材料の割れや製品の破断が生じた多くの報告例があります。

 

応力腐食割れの事例として、アンモニアガスの塵処理配管のSUS304製ドレンノズルが半年で破断・脱落した事例や、約9年間使用したポンプ吐出配管のSUS304製フランジの溶接部で、割れが生じた事例などさまざまな報告があります。

 

オーステナイト系ステンレス鋼の局部腐食を事前に防ぐには

 

オーステナイト系ステンレス鋼において炭化物が析出することによって、耐食性が低下する防止策は、鋼種を変えることもひとつの方法です。特に炭化物が生じてしまう環境では、下記のような鋼種を使うことをおすすめします。

Cr炭化物の生成を抑制できる鋼種をつかう

・低炭素のステンレス鋼をつかう

 

どちらの方法もCr炭化物の生成を抑制する方法です。Cr炭化物を抑制させる合金元素として、TiやNbといったものが知られており、その鋼種としてはSUS321やSUS347などがあります。これは、TiやNbがCrよりも炭素と炭化物を作りやすい性質を利用したものです。

 

一方で、炭素量(0.03%C以下)が少ない極低炭素ステンレス鋼を使用することで、Cr炭化物の析出を減らすことができます。代表的な鋼種はSUS304LやSUS316Lなどがあります。