学習コーナー|Kabuku Connect(カブクコネクト) https://www.kabuku.io/ 部品加工、調達のWEB即時見積りができるカブクコネクト Wed, 28 Feb 2024 05:28:16 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.1.5 部品設計をするときに知っておきたい機械加工の基礎知識 第3回 切削加工 研削盤編 https://www.kabuku.io/case/plan/pdbkm-3/ Wed, 28 Feb 2024 05:27:47 +0000 https://www.kabuku.io/?p=5555 1.はじめに  第2回では、フライス盤加工について説明しました。今回は、切削加工後に行う仕上げ加工の一つである研削盤加工(研削加工とも言います)について説明します。 2.研削盤加工の基礎知識  旋盤加工やフライス盤加工は […]

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1.はじめに

 第2回では、フライス盤加工について説明しました。今回は、切削加工後に行う仕上げ加工の一つである研削盤加工(研削加工とも言います)について説明します。

2.研削盤加工の基礎知識

 旋盤加工やフライス盤加工は丸棒やブロック状の素材の状態から所望の形状に加工する形状加工を主な目的としています。素材を所望の形状に加工した後、場合によっては加工物の表面をさらに整える必要があります。この後加工のことを一般的に仕上げ加工といいます。仕上げ加工では主に加工物表面の傷やうねり等を取り除き、表面粗さを向上させます。研削盤加工は仕上げ加工の中でも最もポピュラーな加工方法です。研削加工とは、研削盤と呼ばれる工作機械と研削砥石という工具を使用して、加工物の表面を精密に削るものです。加工物の表面を1μm単位で削ることで、切削加工では得られない表面粗さや寸法精度、幾何公差の仕上げを行います。

 図1を参照して切削加工と研削加工の違いを説明します。

 切削加工では、バイトやエンドミルといった金属製の工具で加工するため、一回の切り込み量(0.01㎜~0.1㎜)を多くすることができ、加工時間を短くすることができます。一方で研削加工は研削砥石で行うので1回の切り込み量(0.001㎜~0.01㎜)が小さく、加工量が微量なので加工時間が長くなります。一般的に研削加工での加工量は切削加工の加工量の1/10と覚えておけば時間間隔やコスト感覚をつかめます。

図2に研削砥石を、図3に研削砥石の概要を示します。図2に示すように研削砥石は円形をしており、その中心に研削盤の回転軸を受け入れる穴が開いています。研削砥石は、切削工具の刃の部分を担う砥粒と砥粒を結合するためのボンドである結合剤とを細かくし、混ぜて攪拌後に焼成して作ります。一般的な研削砥石では、砥粒はアルミナ質系と炭化ケイ素系の2種類があります。砥粒がアルミナ質系の研削砥石は低硬度、高靭性で炭素鋼や合金鋼の研削に用いられます。一方で、砥粒が炭化ケイ素系の研削砥石は、高硬度、低靭性であるので非鉄金属やガラス、ゴム等に用いられます。また、特殊な研削砥石として超砥粒ホイールというものがあります。これは、セラミックや非鉄金属(超硬合金等)などの難削材や成形研削の仕上げに用いる特殊な砥石になります。超砥粒ホイールの砥粒には、ダイヤモンド砥粒と、CBN(立方晶窒化ホウ素)砥粒の2つがあります。

ダイヤモンド砥粒はダイヤモンドを細かく砕いて粒状にしたものです。非常に硬いので超硬合金など硬すぎて通常の研削砥石では研削が進まない場合に使用します。ただし、ダイヤモンドは鉄系材料には使用できないというデメリットがあります。その理由は、加工の際の熱でダイヤモンドの酸化が進行し、二酸化炭素になって摩耗が進むからです。加えて、鉄と接触するとダイヤモンドの構成する炭素同士を共有結合させている電子を鉄に奪われて拡散する化学反応を起こして摩耗が進むからです。

次に、CBN(立方晶窒化ホウ素)砥粒は、h-BN(窒化ホウ素)を原料とし、ダイヤモンドの合成方法と同様に高温・高圧法で人工的に合成します。CBN(立方晶窒化ホウ素)はダイヤモンドに次ぐ硬さと熱伝導率を有し、1300℃までの高温下でも安定した性質を有します。これによりCBN(立方晶窒化ホウ素)は、ダイヤモンド砥粒が適さない鉄系材料の加工に広く使われています。

ダイヤモンド砥石、CBN砥石ともに一般焼成砥石(アルミナ質系、炭化ケイ素系)に比べて難削材等の加工に利点があり、砥石寿命も長いという利点がありますが、高価格であること、硬いために砥石の形状成形が困難であり、ツルーイングやドレッシングが難しいという欠点もあります。尚、超砥粒ホイールは、後述する平面研削盤や円筒研削盤等で使用し、手軽に使用できる両頭グラインダーでは使用しません。

また、結合剤は、上記した砥粒同士を固めるためのボンドとして機能し、セラミックス、樹脂、金属の3種類の結合剤があります。セラミックス系の結合剤はビトリファイドと呼ばれ、砥石にはVの表記が用いられています。砥粒とビトリファイドをよく攪拌させた後、焼結成型するため、砥粒同士の結合が強く、幅広い加工物の精密研削に適しています。

 樹脂系の結合剤はレジノイドと呼ばれ、砥石にはBの表記が用いられています。レジノイドはフェノール樹脂、またはその他の熱硬化性合成樹脂で構成されていて、200℃前後で硬化させて砥石を製造します。結合剤にレジノイドを用いた砥石は、比較的弾性があり、高速回転に耐えます。

 金属系の結合剤はメタルボンドと呼ばれ、砥石にはMの表記が用いられています。メタルボンドは、合金で砥粒を焼結するので、砥粒を強靭に保持することができ、耐熱性や耐摩耗性に優れています。加えて、長寿命で形状の維持性が高くなります。主に荒工程や中仕上げで使用され、仕上げ工程には向いていません。

粒度は砥粒の大きさを示すもので小さい数字ほど目が粗く、研削能力が高くなります。逆に粒度の数値が高い数字ほど砥粒が細かくなり、加工物の表面の仕上げ状態が良くなります。しかし、研削能力が低下し、研削熱が発生し易くなり、研削焼けやビビリが生じることが多くなります。粒度は最小数値が4で最大数値は8000になります。加工物の仕上げ面に応じて適宜粒度の大きさを選択します。次に結合度は砥粒を結合する強さを表しています。結合度はアルファベットで表し、Aが最も柔らかく、Zが最も硬い状態を表しています。組織は砥粒の容積に対する砥粒の含有率で、0から14の数値で表し、数値が0であれば砥粒率は約60%程度でぎっしりと詰まった状態です。逆に数値が14だと砥粒率は約34%となります。結合剤の量が同じでも砥粒率が増えると砥粒の保持力が弱く、砥粒の脱落が増えるので柔らかくなります。一方、砥粒率が減ると砥粒 の保持力が強く、有効切れ刃が少なくなり、研削能力が落ち硬くなります。

 図4に研削砥石の構造を示します。研削砥石は、先に説明したように砥粒と結合剤を細かく砕いた状態で攪拌して焼成します。焼成した際に、砥粒と結合剤の他に内部に空気が溜まった気孔というものができます。この気孔は、砥石表面に出てくると、加工物の切り屑を一時的に溜めておくポケットとして働き、加えてクーラントなどの冷却水や空気を貯めて、研削加工時に発生する熱を冷却する働きをします。

 研削砥石は、高速度で回転して研削砥石の外周面に突出した無数の砥粒が切れ刃として機能し、加工物の表面を削り取り、加工物の表面を美しくかつ正確な寸法で仕上げます。また、研削砥石は、加工が進むと外周面に突出した砥粒が摩耗しますが、適宜外周面から脱落して、常に新しい砥粒、すなわち切り刃が生じて加工能力を維持することができます。これを切り刃の自生作用といい、他の切削工具(バイト、エンドミル等)にはない特徴です。

 

3.研削盤加工の種類

 研削盤加工には、加工物の形状に応じていくつかの種類の研削盤を使い分けて研削加工を行います。以下に加工物の形状に応じて使用する研削盤加工について説明します。

  • 平面研削

ブロック状の加工物の平面の精度を出したいときに使用する工作機械が図5に示す平面研削盤となります。また、図6に平面研削の概要を示します。

 図6に示すように平面研削盤では、主軸に研削砥石を取り付けて高速回転させます。研削砥石の下方には、X軸方向及びY軸方向への送りが可能なテーブルが設けられています。このテーブルに設置されたマグネットチャックを介して加工物をテーブルに固定します。高速回転する研削砥石を加工物に当てて、X軸方向に加工物を往復動させることで加工物の表面を研削します。加えてY軸方向にも送りを掛けることで、加工物の上面の面精度(表面粗さ)を整え、精密な平面度や平行度を得ることができます。尚、研削加工時には、研削時の熱で加工物の膨張に伴う精度低下や割れ、焼け等の不具合を防ぐため、クーラント(冷却材)材での冷却が必須になります。

 

  • 円筒研削

段差や溝がある円筒形状において、外周面の精度を出したいときに使用する工作機械が円筒研削盤です。図7に円筒研削盤の概要を示し、図8に円筒研削の概要を示します。

 円筒研削盤は、図7及び図8に示すように円筒状の加工物の両端をセンターで保持した状態で加工物を回転させます。その状態で高速回転させた研削砥石を円筒物の外周面に接触させて研削を行います。円筒状の加工物を軸線方向に往復動させることで円筒状の加工物の外周面全体の研削を行うことができます。円筒研削は、加工物の表面に段差や溝があっても研削が可能です。また、小径、長尺物ではセンターで抑えた際に研削砥石を押し付けるとたわむ場合があるので注意が必要です。

 

  • センターレス研削

段差や溝のない円筒状の加工物の外周面の研削に用いるのがセンターレス研削盤です。図9にセンターレス研削の概要を示します。

 センターレス研削は、円筒研削と異なり、円筒状の加工物の両端をセンターで保持しません。そのため、センターを使用しないことからセンターレス(心なし)研削と呼ばれます。センターレス研削では加工物を支持刃と調整ローラーで挟んで支持した状態で回転させて外周面に研削砥石を押し当てて研削します。長尺物でも撓むことなく研削できるのが特徴です。センターレス研削では、加工物をチャックで固定しないので溝や段差があるものは基本的に対応できません。

 

  • 内面研削

円筒状部材の内面の仕上げ加工を行う場合に使用するのが内面研削です。図10に内面研削の概要を示します。内面研削は、円筒状の加工物を回転させながら、加工物の内面に加工物と逆方向に回転する研削砥石を押し当てて研削する方法です。図10に示すように加工物の軸線方向に往復動させて研削する方法をトラバース研削といい、加工物の内面を漏れなく仕上げることができます。

5)端面研削 

 円筒部材の端面や底面の仕上げ加工を行う場合に使用するのが端面研削です。図11に端面研削の概要を示します。

 加工物を回転させつつ、加工物の回転方向と逆方向に回転させた研削砥石の端面を円筒状の加工物の端面や底面に押し当ててこれらの面を研削仕上げします。加工物の大きさが大きく、加工物を回転させることが困難な場合には、研削砥石のみを回転させつつ、公転運動させて研削するプラネタリ形という方法で研削を行います。

 

4.平面研削の設計ポイント

 ブロック状部材を設計する場合、研削加工の知識が不十分な場合、図12に示すような平面研削ができない形状を設計することがあります。以下、平面研削を意識した設計ポイントについて説明します。

 図12の形状はなぜ平面研削できないのでしょうか。図13に図12の平面に研削を行った場合の概要図を示します。

 図13に示すように、図12のブロックの研削指示面に平面研削を行うと、奥のL字状の壁の部分が研削砥石と干渉します。図13に示すように研削砥石は円形のため、研削砥石の進行方向の壁部分の手前に研削加工を行えない領域が生じます。図14に研削不可領域の概要を示します。図14に示すように、図12のブロックにおいて奥側のL字状の壁が干渉形状となり、研削指示面に研削不可領域が発生します。

 では、どのような形状なら研削不可領域を発生させずに済むかを検討します。図15は図12の設計改善案を示します。研削不可領域を生じさせない一番簡単な設計変更は、研削砥石と干渉する奥側のL字状部分を別パーツ化することです。

 図15に示すように部品を分割することで、研削指示面において研削砥石と干渉する形状が無くなるので、研削指示面全面の平面研削が可能となります。

 

また、図16に研削する際に要注意な形状を示します。図16に示すようにL字状のブロックにおいて直交する二面の両方、あるいは片側1面のみに研削する場合、注意が必要です。

 図17に図16の形状を研削する際の注意点を示します。

 図17に示すように、研削する際に研削面から立ち上がった壁部分が研削砥石の側面と接触する虞が高く、壁部分の面が荒れるだけでなく、研削砥石の側面にこの壁部分がぶつかるとその衝撃で研削砥石が破砕して作業者側に破砕した破片が飛び散り非常に危険です。また、壁部分を作業者側に配置すると研削砥石の奥行方向がこの壁で遮られてしまい、目視確認できなくなり、こちらも作業上危険な状況になります。このような設計では、必要とする研削精度を得られないだけでなく、作業自体も危険になります。

図18に図16の設計改善案を示します。

 図18に示すように図16の形状を別パーツ化することで各パーツごとに容易に平面研削をすることができます。図16の直角部分に直角度が必要な場合は、2つの部品に平面度、直角度を指示します。このように、複雑な形状で研削が難しい場合は別パーツ化して単純な形状とすることで研削加工を容易にするだけでなく、研削加工に掛かるコストを低減することができます。

 次回は加工の第4回として板金加工について説明します。

 

 

株式会社リッジリフト
代表取締役 今井 誠 

〔略歴〕
1999年千葉工業大学大学院工学研究科精密機械工学専攻修了。
日本電産株式会社でハードディスク用スピンドルモーター開発、2002年オグラ宝石精機工業株式会社で加工技術及び社内設備の開発に従事する。
2008年に技術士(機械部門)を取得し、都内特許事務所勤務する。
2020年4月にやなか技術士事務所を開業。
2023年12月株式会社リッジリフトを設立し、代表取締役に就任。
放電加工やAM(付加製造)を中心に、加工技術の「困りごと」に対応している。

 

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部品設計をするときに知っておきたい機械加工の基礎知識 第2回 切削加工 フライス盤編 https://www.kabuku.io/case/plan/pdbkm-2/ Fri, 26 Jan 2024 02:00:39 +0000 https://www.kabuku.io/?p=5475 1.はじめに  第1回では、切削加工の流れ及び旋盤加工について説明しました。今回は、切削加工の一つであるフライス盤加工(フライス加工とも言います)について説明します。 2.フライス盤加工の基礎知識  フライス盤加工とは、 […]

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1.はじめに

 第1回では、切削加工の流れ及び旋盤加工について説明しました。今回は、切削加工の一つであるフライス盤加工(フライス加工とも言います)について説明します。

2.フライス盤加工の基礎知識

 フライス盤加工とは、図1に示すフライス盤という工作機械を用いて行う加工です。具体的には、図2に示すようにテーブル上に材料を固定し、刃物(正面フライス、エンドミル、ドリル等)を回転させて材料の上面又は側面にあてて切削加工を行います。

 

 フライス盤加工は、図3に示すようにワークの上面や側面を切削するだけでなく、ワークに溝加工することや、凹部の加工、ドリルを用いて穴開け加工を行うことができます。

 一般的に、フライス盤は、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に移動可能なテーブル上にバイス等でワークを固定して切削加工します。最近では、図4に示すように、3軸方向(X軸、Y軸、Z軸)だけでなく、Θ方向(軸周りの回転)周りの姿勢変更が可能な多軸マシニングセンタも一般的になりつつあります。多軸マシニングセンタでは、図5に示すように従来のフライス盤では切削が難しい自由曲面やひねりのある複雑な形状、アンダーカット部分をワークの姿勢を変更することで加工可能としています。

 

3.フライス盤加工の基礎知識

 フライス盤加工では、図6に示すように加工部位に応じて刃物を使い分けて加工します。

 正面フライスは工具の底面に複数のスローアウェイチップを配置した切削工具です。正面フライスは主に平面加工、側面加工、段加工に使用します。その特徴として一度に切削できる面積が大きく、切削面も高い精度で加工が可能です。次に、エンドミルは、広い面の切削を得意とする正面フライスと反対に細かい部位や溝の加工を得意とする切削工具です。エンドミルは、太さ、長さ、刃の数、刃の形状等種類が豊富ですが、ワークの材質や精度に合わせて工具を選択する必要があります。面取りカッターは、穴加工やワークのエッジ部に面を施す切削工具です。面取りカッターでは、穴あけ加工後に生じたバリを取るために使用します。また、面取りカッターの種類に応じて、C面取り、糸面取り、R面取りを選択して加工することができます。

 また、フライス盤では、図7に示すようにドリルやリーマ、ボーリングバーといった穴開け加工用の切削工具を使用することができます。フライス盤では、1μm単位での位置決めが可能なテーブル上にワークが固定されているので、卓上ボール盤よりも精密な穴開け加工が可能となります。

 次に図8を参照してエンドミルの種類について説明します。

 エンドミルはその形状に応じて特徴と用途が異なります。一般的に先端に平坦な刃を有しているものをスクエアエンドミルと言います。エンドミルの中で最も一般的なもので、粗加工から仕上げ加工まで使用でき、用途も水平面、垂直面の溝加工や側面加工など多くの場面で使用できる切削工具です。また、高合金鋼や鋳物等の加工に適しています。

 ラフィングエンドミルは粗加工専用のエンドミルで切削量が多い場合に使用します。

ラフィングエンドミルは炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼、アルミ合金等の加工に用います。

 最近では、多軸マシニングセンタを使用する場面が増えてきており、複雑な3次元形状を加工するために、先端がボール状のボールエンドミルを使用することが増えてきています。ボールエンドミルの注意点として先端部のチップポケットが小さいことから切り屑の排出性が悪く、加えて先端部の刃こぼれ・摩耗が激しい点があります。

 ラジアスエンドミルは刃先のエッジにRが付いています。コーナー等の加工おいてチッピングし易い時にラジアスエンドミルを使用することでチッピングを低減することができます。また、ラジアスエンドミルは刃先Rの寸法に関係なく刃径を大きくすることができ、工具剛性を高めることができるので工具の倒れを小さくでき、逃げやびびりを抑制でき、安定した切削が可能になります。また、剛性が高いことから粗加工の加工能率の向上も見込めます。最近では、多軸マシニングセンタにおいて三次元形状の倣い加工に用いられることも増えてきています。

 テーパーエンドミルは名前の通り先細りのテーパー状に形成されており、テーパー面や金型の抜き勾配等の加工に用いられます。

 

4.フライス盤加工品の設計ポイント

 フライス盤加工は、平面加工や側面加工、溝入れ、凹部作成、穴開け等幅広い加工が行えます。しかしながら、フライス盤加工でなんでも出来るわけではありません。フライス盤加工で加工できる形状、加工できない形状を知っておくと、不用意なコストアップを抑制できます。以下、フライス盤加工の設計ポイントを説明します。

1)凹部を加工する際のポイント

 図9に示すような凹部のある形状では、角部の処理がポイントとなります。フライス盤では、円筒状の工具を使用します。そのため、凹部を加工する際、エンドミルは図10に示すような加工軌跡(青色の矢印線参照)を描くことになり、角部にはRが形成されます。このような角部に形成されるRは隅Rと呼ばれています。

 図9のように角部に隅Rが形成されない凹部がどうしても必要な場合は、フライス盤加工では加工できない形状であり、型彫り放電加工で加工せざるを得ず、非常にコストのかかる加工になります。

 一方で、フライス盤で加工する場合、隅Rの処理の仕方でコストが変わってきます。

 図11に示すように、直径の大きなエンドミルで粗加工を行った後、直径の小さいエンドミルに工具交換を行い、角部を切削することで隅Rの大きさを小さくすることができます。この方法だと、仕上げる隅Rの大きさに応じてエンドミルの交換回数が増え、段取りの手間が増えます。また、粗加工後仕上げる隅Rの大きさに合わせたエンドミルに交換して1回で加工する場合、切削量が増えることになりコスト高になる傾向にあります。また、隅Rは際限なく小さくできるわけでもありません。一般的には、図12に示すように切削に使用するエンドミルの突出量(L)をエンドミルの直径(ΦD)で割った数値が5以下になるようにRの大きさを設定する必要があります。

 図13は、凹部の角部に隅Rを設けるのではなく、逃げ形状を設ける方法です。凹部内に部品を挿入する場合、特に嵌め合いの場合では隅Rが嵌め合いの部品と干渉するおそれがあります。そのため、角部に逃げ形状を設けることで嵌め合い部品との角部での不用意な干渉を防ぐことができます。その結果、凹部と嵌め合い部品との嵌め合い関係を保証することができます。

2)部品の外周部を加工する際のポイント

 フライス盤加工ではワークの外周部を加工する際にも注意すべき点があります。特に図14に示すように外周部に凹んでいる箇所がある場合は、その部分に隅Rが形成されます。このように凹んでいる部分をエッジ状に加工したい場合はワイヤーカット放電加工で加工する必要があります。しかし、ワークの厚みによってはワイヤーカット放電加工でも加工できない場合があります。加工知識が乏しいと単純に上記のような形状を設計しがちです。このような形状は地味にコストアップ要因になります。したがって、外周部であっても隅Rが形成される凹部については予め図面でRの大きさを指定しておくことが望ましいです。部品を設計した際には、その形状をどのように作るのかをイメージトレーニングすると加工困難な形状を回避できます。

3)エンドミル加工における深さ方向の設計ポイント

 エンドミルで加工する際に注意すべき点は隅Rだけではありません。図15に示すように深さ方向についても注意点が必要です。エンドミルはフライス盤の主軸に把持して回転させます。このため、構造上片持ち梁状態となります。そして、図15のようにエンドミルの刃をワークに押し当てて加工する際、エンドミルの先端は切削抵抗を受けます。その結果、エンドミルの先端(自由端)側がワークと反対方向に撓みます。エンドミル先端の撓み量は、工具の切り込み量と、エンドミルの主軸(チャック)からの突出量に比例します。工具の切り込み量が大きいと撓み量も大きくなるので、加工精度が出にくくなります。

 エンドミル加工での加工精度を求める場合は、図16に示すように深さ方向において加工する深さ量を減らし、所定の深さまで何回かに分けて切削する方法があります。一回の加工深さを減らすことで切削抵抗が小さくなり、エンドミル先端での撓み量を小さくできるので加工精度の低下を抑制できます。直径の太いエンドミルで粗加工を行った後、径の小さいエンドミルで側面の切り込み量及び深さ方向の深さを減らして加工することでコストを下げつつ、加工精度を求めることができます。

4)エンドミルの刃長に合わせた溝加工のポイント

 エンドミルを使用した加工において、深さ方向の切削量だけでなく、工具径と刃長にも注意を払う必要があります。

 図17に示すように、深さ方向において加工深さが深すぎると、エンドミルの軸部と

ワーク切削面とが干渉する虞があります。このため、エンドミルで加工する部位の深さを刃長以下に設定する必要があります。エンドミルの刃長以上に深さを設定する場合には、ワークの加工面とエンドミルの軸部とが干渉しないように逃げ形状を設けたり、軸部がエンドミルの刃の直径よりも細いものを使用する必要があります。これらの情報を設計で生かすことで予め加工しやすい形状設計が可能となり、コストダウンを図ることができます。

5)穴加工を行う際のポイント

 フライス盤では、ドリルを使って精密な位置決めを行った穴開け加工が可能です。しかし、フライス盤を用いたドリル加工においても注意すべき点があります。図18に示すように一般的に穴開け加工は深くなればなるほど真っすぐに穴を開けるのが困難になっていきます。その理由は、ドリルもエンドミルと同様片持ち梁状態であるので、加工深さが深くなるにつれ、ドリル先端に掛かる切削抵抗で回転が振れてしまい、穴が曲がっていきます。そのため、一般的にドリル加工で真っすぐ穴を開けられるのは穴径の8倍程度です。穴径の8倍以上の穴開け加工が可能なロングストレートドリルもありますが、通常のドリルよりも割高であり、加工の現場になければ新たに手配する必要があるのでコストアップ要因となる点に注意が必要です。したがって、穴を設計する際は、穴径に対して深さを8倍以下に設計することが望ましいです。

6)端部に近い穴の設計ポイント

 部品設計をする際、図19に示すようにブロック状の部品の端部近くに穴を設けることがあります。この際、穴が端部に近すぎると、穴あけ加工の際の力で穴に近い端部が裂けたり、亀裂が入ったりします。また、複数の穴が隣接するような場合、穴同士の距離が近いと穴が破れたり、亀裂が入ったりすることがあります。

 図20に穴径と最小肉厚の関係を示します。例えば、Φ8の穴を開ける場合には端部からの距離を最低でも1mm開ける必要があります。また、Φ8の穴同士を隣接させる場合でも1mmの間隔が必要となります。部品設計する際には図20を参照することで加工上の失敗を抑制できます。

 次回は加工の第3回として研削盤加工について説明します。

 

株式会社リッジリフト
代表取締役 今井 誠 

〔略歴〕
1999年千葉工業大学大学院工学研究科精密機械工学専攻修了。
日本電産株式会社でハードディスク用スピンドルモーター開発、2002年オグラ宝石精機工業株式会社で加工技術及び社内設備の開発に従事する。
2008年に技術士(機械部門)を取得し、都内特許事務所勤務する。
2020年4月にやなか技術士事務所を開業。
2023年12月株式会社リッジリフトを設立し、代表取締役に就任。
放電加工やAM(付加製造)を中心に、加工技術の「困りごと」に対応している。

 

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部品設計をするときに知っておきたい機械加工の基礎知識 第1回 切削加工 旋盤編 https://www.kabuku.io/case/plan/pdbkm-1/ Wed, 27 Dec 2023 06:08:32 +0000 https://www.kabuku.io/?p=5398 1.はじめに 多くの技術者にとって、加工技術の基礎について学ぶというのは今更感があると思います。しかしながら、新入社員研修等を行っていると年々大学で旋盤やフライス盤等の工作機械を使ったことがある、加工の経験があるという若 […]

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1.はじめに

多くの技術者にとって、加工技術の基礎について学ぶというのは今更感があると思います。しかしながら、新入社員研修等を行っていると年々大学で旋盤やフライス盤等の工作機械を使ったことがある、加工の経験があるという若手社員が減少してきていることを痛感します。最近では大学での年次取得履修数が減っていることで、大学の授業は講義中心になってきており、実際の工作機械を使用した演習が減少しています。つまり、大学の工学部を卒業しても加工の知識・経験が乏しくなっています。これから数回にわたって部品等を設計するために必要な加工の知識や勘所を説明していきます。

2.設計と加工・計測の関係

 設計者が部品等を設計するのに加工の知識を必要とするのは何故でしょうか?図1に示すように、設計者は設計した部品を図面化します。加工工程の作業者はその図面を確認しながら加工し、検査工程の作業者は図面を見ながら加工された部品を検査(計測)します。設計者に十分な加工知識がない場合、加工困難な形状や部位を知らずに設計してしまい、それが図面に反映されます。その結果、加工工程で部品を加工できない、あるいは高コストな加工になることがあります。したがって、設計者には、図面にコストや加工可能な形状を反映させるべく加工の知識が必要となるのです。

3.切削加工の基礎知識

 切削加工とは、図2に示すように円筒状あるいはブロック状のワーク(金属や樹脂材料)をバイトやエンドミル、ドリルなどの切削工具を用いてその表面を削り取り、希望する形状・寸法に加工する方法のことです。

図3を参照して、切削加工の流れを説明します。

まず、最初の工程は粗加工です。この工程では、ワークを大雑把に削って所要の形状に近づけます。粗加工では図面の形状に近づけることが優先されるので、1回の加工量(工具の送り量)を0.2㎜~0.3㎜程度に設定します。粗加工では加工量も大きいので、表面の精度は算術平均粗さRaで25μm程度に仕上がります。

 次に中仕上げ加工を行います。一般的に仕上げ加工の前準備として行います。通常、仕上げ加工のために仕上げ代を0.02㎜~0.1㎜程度残して加工します。

1回の加工量は、粗加工よりも小さくするとともに加工の際の工具の送り速度も粗加工より遅くします。表面の精度は算術平均粗さRaで6.3μm程度に仕上がります。

 最後に仕上げ加工を行います。仕上げ加工では1回の加工量を0.05㎜以下に落として、送り量もさらに遅くしてゆっくりと仕上げていきます。表面の精度は算術平均粗さRaで1.6μm~3.2μm程度に仕上がります。尚、図面において表面粗さが指定されている場合は、仕上げ面の表面粗さが指定された表面粗さ以下になるように適宜加工条件を設定して仕上げを行います。

 切削加工そのものは仕上げ加工で終了です。しかしながら、ワークが金属材料である場合、表面を切削したままにすると酸化してしまうので、表面処理が必要となります。表面処理は、焼き入れ焼き戻し、浸炭処理、めっきなど、ワークの材質に合わせた処理を選択して行います。

 

 

4.旋盤加工の基礎知識

 旋盤加工とは、図4に示す旋盤という工作機械を用いて行う加工です。具体的には図5に示すチャックに円筒状のワークをセットして回転させ、刃物(バイト)で切削加工を行います。

                      

 旋盤加工では、図6に示すようにワークの外周面を切削するだけでなく、ワークの端面や内周面、穴あけ加工、ねじ加工、溝加工など多岐に渡る加工を行うことができます。

 旋盤加工では、図7に示すように加工部位に応じて刃物(バイト)を使い分けて加工します。これらの刃物は、従来旋盤作業の加工者が必要に応じて刃物を研ぎだして作成していました。そのため、旋盤作業の加工者には自ら刃物を研ぎだせる熟練度が必要でした。そこで、刃物の研ぎ出しをしなくても旋盤加工ができるように開発されたのが図8に示すスローアウェイチップです。

 スローアウェイチップは三角形の形をしており、その頂点に刃が形成されています。つまり、チップ1個につき刃が3か所形成されています。1か所の刃の切れ味が落ちた場合、120°回転させて使用することで切れ味を常に保つことができます。スローアウェイチップを工具として使用することで、ベテラン職人でなくとも一定の加工精度が出せます。このスローアウェイチップは様々な材質のものが販売されており、ワークの材質に合わせて選択することが可能です。

 図9にスローアウェイチップの材質毎の価格と特徴をまとめたものを示します。

 図9に示すように旋盤用のスローアウェイチップで最も使用されているのが超硬合金になります。金属切削に使用されるチップの約80%程度を占めています。この理由は超硬合金が硬さと粘り強さの両方を備えているからです。一般的に価格は¥600程度で、その他の材質よりも価格が安いため、一般的な金属の切削加工で使用する頻度が高くなります。

 サーメットは鉄との親和性が低いので鉄系材料を切削する際、構成刃先が出来にくく高速切削が可能です。但し、衝撃に弱く欠けやすい点に注意が必要です。

ダイヤモンドは超硬合金に比べて構成刃先を形成しにくく、刃先寿命も超硬合金の10倍以上であり、長期間にわたって安定した加工精度を得ることができます。ダイヤモンドを使用する材料としてはアルミニウム合金などの非鉄金属かつ軟質材料が向いています。

 CBN焼結体はダイヤモンドよりも耐熱性に優れており、焼き入れ鋼や鋳鉄等の高硬度材料の高速切削に向いています。一方で軟質材料の加工に用いると摩耗が大きくなります。ただ、ダイヤモンド、CBN焼結体は工具の価格が高く、コスト的に超硬合金やサーメットとの差別化を図るのが難しいのが現状です。

 

5.旋盤加工品の設計ポイント

1)軸部品を加工する際のポイント

 旋盤ではワーク(円筒状部材)の左端部をチャックで把持した状態でワークを回転させます。そして、ワークの

右端部から刃物(バイト)を接触させて加工していきます。

 図10に示すように、旋盤ではワークの左端部のみを把持しているので、ワークは片持ち梁状態と言えます。この状態で、ワークの右端部に刃物を当てて切削加工を行うと、ワークの右端部に切削抵抗が掛かり、ワークの右端部は刃物と反対側に逃げようとします。このため、チャックからワークの突き出し長さが大きくなると、切削抵抗に対して逃げ量が大きくなります。これにより、加工する際にワークにびびりや逃げが発生し、加工精度の低下が生じます。このため、突き出し長さがワークの直径の3倍を超える場合には、加工精度の低下を抑制するために心押台(センタ)を使用します。心押台によりワークの右端部を保持して、ワークを両持ち状態とすることで刃物からワークが逃げることを抑制して加工を行います。

したがって、軸部品の長さが長い製品を製作する場合には、予め部品図にセンタを使用して加工することを指示することが望ましいです。

 具体的には、図11に示すように、軸の右端部側にセンタ穴の指示をします。図11の一番上がワークにセンタ穴を残す場合の指示、真ん中がワークにセンタ穴を残してもよい場合、一番下がワークにセンタ穴を残してはならない指示になります。

一般的に試作品や社内で使用する物等、見栄えを気にしないものに関してはセンタ穴を残すようにします。センタ穴を残さない選択をすると、センタ穴が設けられた分だけ材料を切り落とさなければならず、材料を無駄にしてしまうからです。

 

2)軸部品の外径部分を加工する際のポイント

 図12に示すように軸部品の段差部分の角部分には 基本R形状が残ります。

 これは図8に示したスローアウェイチップの頂点部分を見てもらうと分かりますが、頂点部分には刃の耐久性を向上させるためにRが付いています。このため、スローアウェイチップで加工した場合、角部分には微小なR形状が残ります。

 嵌め合いなどで2つの部品を組み合わせる場合には、相手部品側の対応する部位をC面取りするなどして干渉を回避する必要があります。R形状を残さない場合には、段差部の端面に溝を付けてR形状をなくす逃げや、先端が鋭い剣先バイトなどで角の部分に切り込みを入れてR形状をなくす工夫が必要となります。

 

3)軸部品の内径加工する際のポイント

 図13に示すようにワークの内径を加工する場合、気を付けなければならない点として内径(穴ぐり)バイトの

突き出し長さがあります。内径バイトは図13のように片持ち梁状態で加工を行うことになります。加えて1)で説明したようにワークの方も片持ち梁状態で加工されます。

その結果、ワーク及び工具の双方が片持ち梁状態であるので、外径を切削するよりも内径を削る方が加工精度を出すのが困難です。一般的には内径バイトの突き出し長さがシャンク径の3倍以上になると逃げやびびりが発生し易くなり加工精度が低下します。内径加工の場合は、センタ等の加工精度の低下を抑制する対処方法がないので、精度の必要な部位の長さを入口からシャンク径の3倍以下にするような工夫が必要となります。

 

4)外径にねじ加工を行う際のポイント

 図14は加工知識が不十分な設計者が描きがちな図面です。この図面では、2)で説明した段差部にR形状が付くことを考慮していません。このため、この図面を受け取った旋盤加工の作業者は、設計者に加工部位の形状の変更等の提案や確認を行う手間が生じ、ひいてはコストアップ要因となります。

では、今まで説明してきた旋盤加工の加工知識を活かして、この図面を修正するにはどうすべきでしょうか?

 修正案としては2点提案できます。1つ目の修正案は段差部にR形状が付くことを考慮しスローアウェイチップで加工できるようにRの大きさを指示します。

この方法であれば、ワークの外径をスローアウェイチップで加工し、その後外径部分におねじ加工を行うことができます。しかしながらこの方法では、段差部側に不完全ねじ部ができてしまい、必要なねじの長さを確保できない場合があります。また、この方法だと、このねじと螺合する相手側部品にC面等の加工をして干渉をさける工夫が必要となります。

  2つ目の修正案は、図16に示すように、段差部の端部に溝加工を行うことで、段差部の端部に逃げを設けてねじ部に不完全ねじ部を作成しない方法です。

この方法であれば、このねじと螺合する相手側部品にC面等の加工をしなくてもすみます。

 

 

 

5)長尺部品におけるコストダウンを意識した設計

 軸部品の多くが回転軸として使用されます。図17に示すように軸部品の両端部は一般的に軸受で保持されて軸の回転精度を保証します。このような軸部品を加工する場合、多くの設計者がやりがちなのが、図17に示すように軸受の保持部分と同径部位の全長に渡って加工精度を要求することです。

図18を見てもらえばわかるように加工精度が必要な部分は軸受と嵌め合う部分のみとなります。つまり軸方向において2つの軸受間の部位は過剰な加工精度となります。したがって、図18に示すように軸方向において軸受と嵌め合わない部位については、あえて径を変えるなどして加工精度を普通許容差とすることで加工がやり易くなり、コストも低減することが可能です。

 このように加工の知識を活かして一工夫することでコストダウンや生産性を考慮した設計を行うことが出来、ひいては部品のコストダウンを図ることができます。

 

 次回は切削加工の第2回としてフライス盤加工について説明します。

 

株式会社リッジリフト
代表取締役 今井 誠 

〔略歴〕
1999年千葉工業大学大学院工学研究科精密機械工学専攻修了。
日本電産株式会社でハードディスク用スピンドルモーター開発、2002年オグラ宝石精機工業株式会社で加工技術及び社内設備の開発に従事する。
2008年に技術士(機械部門)を取得し、都内特許事務所勤務する。
2020年4月にやなか技術士事務所を開業。
2023年12月株式会社リッジリフトを設立し、代表取締役に就任。
放電加工やAM(付加製造)を中心に、加工技術の「困りごと」に対応している。

 

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設計者に必要な品質管理手法 第三回 設計者が身につけるべき品質管理手法 https://www.kabuku.io/case/plan/qcmfd-3/ Tue, 19 Dec 2023 02:10:32 +0000 https://www.kabuku.io/?p=5374 設計および開発に携わる技術者が身につけておくべき品質管理技術を、『品質の教科書』の著者である皆川一二氏の許可を得て解説する。この本の著者である皆川一二氏は、長年にわたってトヨタの品質管理のスペシャリストを勤め、その経験を […]

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設計および開発に携わる技術者が身につけておくべき品質管理技術を、『品質の教科書』の著者である皆川一二氏の許可を得て解説する。この本の著者である皆川一二氏は、長年にわたってトヨタの品質管理のスペシャリストを勤め、その経験を基に、自動車業界だけでなく広く産業界に普遍的な品質管理の手法を『品質の教科書』にまとめており、技術者必携の書として知られている。

1.製品に存在する「3つの品質」

 この連載の第一回目に、「品質とは、顧客満足度である」と言いました。また、一般的に、品質マネジメントシステムを導入している企業では、品質を「製品の品質」と「仕事の品質」の2つに分けているところが多いと思います。

 設計開発の世界では、「製品の品質」は、以下の3つに分けることができます。

 

  • 市場の品質(要求の品質)

・顧客の要望がどのようなものかを表したもの。

 

  • 企画・設計の品質(狙いの品質)

・商品を開発する立場から作り上げる品質のことで、具体的にはデザインや性能、

製品仕様のこと。

・企業から見て、「これならお客様が買ってくれるだろう」という商品コンセプトを

基に作り込む品質なので、「狙いの品質」と表現することもできる。

 

  • 製造の品質(出来栄えの品質)

・設計図面に従って製造された製品の品質

・同じ種類の製品でも生産工程における生産のばらつき度合いによって品質はば

らつくため、「出来栄えの品質」とも呼ぶ。

 

 設計開発の品質を保証するために活用される品質管理手法は、これらの3つの「品質」の要素を満たしていることを確認する目的で用いられます。例えば、

 ・品質機能展開(QFD)

 ・統計的品質管理(SQC): 品質7つ道具、新品質7つ道具、多変量解析、実験計画法

 ・設計FMEA(DFMEA)、工程FMEA(PFMEA)

 ・故障の木解析(FTA)

などが代表的な手法として選択されます。どの手法を使うにしろ、大切なことは、それぞれの手法が何を目的として用いるのか、その手法を用いることで品質のどの側面を満足しようとしているのか、を理解することです。品質手法の適用は目的ではなく手段ですので、どのような品質手法であっても、その目的を正しく理解し、正しい使い方をすることで、効果を発揮します。

 

2.顧客の要求を設計仕様に変換する「品質機能展開」の技法

前項で触れた3つの品質は、図1のように結びつきます。この図を見て頂くとわかるとおり、この結びつきは顧客要求を製品実現に繋げる流れであり、設計開発のプロセスそのものであることを示しています。

「品質機能展開」は、お客様の要求(市場の品質)を設計仕様(企画・設計の品質)に変換するプロセスです。品質機能展開という言葉を使っていなくとも、同じような仕組みを持つ組織は多いと思います。ツールとしての「品質機能展開」の進め方の手順は以下のとおりです。この手順に従って、百円ライターの設計開発を例に、手順2〜5を一つのフォーマットにまとめた例を図2に示します。

 

(手順1)顧客ニーズの収集

(手順2)要求品質展開表の作成

(手順3)品質特性展開表の作成

(手順4)品質表の作成

(手順5)設計目標値の決定

 

3.人に品質を伝える「統計的品質管理」の技法

 前項で触れた品質手法のひとつに「統計的品質管理」(SQC)がありますが、この手法はすでに使われている方が多いのではないかと思います。個人で使われていなくても、それぞれの組織のルールの中に組み込まれている(例えば、定例報告書の中に必ず推移グラフを入れている等)ことも多いでしょう。

 統計的品質管理の基本的なツール群である「品質7つ道具」(パレート図、特性要因図、グラフ、ヒストグラム、散布図、管理図、チェックシート。Q7とも略称される)は、数値データを分析することで課題の可視化を行うものです。言い換えると、第三者に対して、課題(に導くための道筋)を一目でわかるようにできる手法です。品質は、通常は目にみえるものではなく、何らかの手段(=検査)によって、測定された結果として表現されることから、品質7つ道具は、品質を目に見える形にして、言葉を介さずに第三者に品質を伝えるための道具である、ということもできます。

 同様に、「新品質7つ道具」(親和図法、連関図法、系統図法、マトリクス図法、マトリクスデータ解析法、アローダイヤグラム法、PDPC法。N7とも略称される)は、考えていること、つまり非数値的なデータや言語データを整理し可視化するために使われるツールになります。

 

 設計開発には、統計的品質管理の技法は、

  • 設計開発のインプットとして、顧客要求を具体的な数値として表すため、
  • 設計開発の結果を評価する活動の一環として、実際に製造された製品の品質を監視するため、

の2点において必要となります。つまり、設計開発の担当者は、顧客要求を設計のアウトプット(通常、図面や製造仕様書といった書類)に落とし込むために、自らが統計的品質管理を使わなくとも、統計的品質管理を用いたインプットデータを理解できるように、それぞれの管理手法を理解しておく必要があり、また、設計開発が終わった後も、設計がうまくいったかどうかを確認するために、統計的品質管理を用いて監視することが必要になります。後者については、設計開発の担当者が独自に行わなくとも、製造の担当者が行なっているでしょうから、その結果を確認し、必要に応じて可視化を行うべき指標を助言する、というアクションが想定されます。

 言い換えるならば、統計的品質管理の技法は、お客様の世界と技術の世界を、また、技術の世界とモノの世界を、それぞれ橋渡しする役割を果たすために、設計開発に必要となるツールである、と言えます。

 

4.品質不具合への対処は「未然防止」を主とすべき

 どのような製品であっても、製造現場は、品質不具合をゼロに近づけるように日々努力しています。品質不具合は、通常、ヒューマンエラー、または製造機械の故障、誤動作等の要因が絡み合って発生するため、品質不具合の原因追及とその是正は、組織の全ての従業員が共通して管理手法についての知識を持つだけにとどまらず、必要に応じて実際に取り組むべき重要な業務になります。

 この中で、設計開発の担当者は、製造プロセスには直接関わる立場でないことが多いのですが、製品製造の意思決定を行う段階で、「図面や製造仕様書を作成する」という重要な役割を果たしており、品質不具合については、「いかにして品質不具合を発生しないようにする」すなわち、未然防止を行う役割があります。

 未然防止を行うツールの一つが「設計FMEA(DFMEA)」です。設計開発部門は製品設計だけでなく、工程設計まであわせて行うこともあるため、その場合は設計FMEAだけでなく、工程FMEA(PFMEA)も対象に加える方が良いでしょう。検討の対象は異なりますが、基本的な進め方はDFMEA、PFMEAは同じです。

 また、設計開発業務の複雑化・高度化にあわせて、DR(デザインレビュー)の仕組みを設計開発プロセスに取り入れている組織も多くなってきています。本来DRは、設計開発を中心とした関係者による議論の場であり、アウトプットを出すことが目的なのですが、意思決定の場となっている場合も多いのではないでしょうか。自動車メーカーでは、設計開発者が制約なしに議論できるよう、DRを意思決定の場とせず、意思決定は「品質保証会議」で行う、と明確に役割を分けています。このことは、品質不具合を少なくし、高い品質の自動車づくりを支える一つの根幹にもなっています。

 

 

5.「高い」品質を目指すなら、寿命管理とロバスト設計を

 どんな工業製品であっても、必ずその製品が本来の役割を果たせなくなる「寿命」があります。しかしながら、費用対効果の観点や、与えられたシステム内における製品の位置付け、具体的には、関連する他製品の寿命との兼ね合いなどの条件により、寿命は長い方が好ましいとは一概に言えないことがあります。

例えば、ある製品Xは製品Aに組み込まれる一部品の場合、製品Xは10年の寿命があったとしても、製品Aは寿命2年の設計だとしたら、製品Xが壊れることはまずないとしても、オーバースペックかもしれませんし、寿命を相応に短くすることで製造コストを下げる余地があるかもしれません。このような場合は、製品Aを基準として、製品Xの「寿命を管理する」ことを検討しても良いでしょう。

また、製品Xを構成する小部品それぞれにも固有の寿命があり、ある小部品Yの寿命が製品Xの寿命10年よりも短い寿命5年しか持たないこともあるかもしれません。このような場合は、小部品Yの寿命を製品Xの寿命に見合うように長くする必要が出てきます。

 上記の例は製品として完成している状態を示していますが、設計開発の段階でしっかり対応できていることが理想的であり、このような観点を取り入れた設計手法のことを「ロバスト設計」と呼びます。様々な要因や誤差(ばらつき)などを考慮し、安定した性能や品質の製品を作り上げるための設計手法です。 

 

 高い品質とは、高い顧客満足度(を得ていること)です。顧客が満足するポイントは、製品がもつ技術的な機能だけでなく、納期、価格、品質管理の程度などを含む様々な要素があり、同じ製品であっても顧客によって変わります。設計開発は、品質すなわち顧客満足を作り込む最初の重要なプロセスです。設計開発の担当者は、技術的な側面だけでなく、納期や価格、品質管理についても、担当部署と常に良好なコミュニケーションを保つことを意識し、自らの設計開発の成果としての製品を、自信を持って世の中に送り出していってほしいと思います。

奥野技術士事務所 代表
奥野 利明

大学院修士課程(金属工学専攻)修了後、大手鉄鋼メーカーに入社。主に鉄鋼製造の現場において操業技術管理、設備管理、品質管理を担当し、その後、製品企画、プロセス技術開発、技術企画、品質保証業務(QMS品質管理責任者)を経験。2021年に退社し技術士事務所を設立、金属製品製造における品質管理、および航空宇宙製品の品質保証について、現場目線での再発防止の仕組みづくりを積極的に推進している。

現在、公財)新産業創造研究機構の航空ビジネス・プロジェクトアドバイザー、産業技術短期大学非常勤講師を務める。

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設計者に必要な品質管理手法 第二回 品質の作り込みは、仕組みづくりから https://www.kabuku.io/case/plan/qcmfd-2/ Wed, 22 Nov 2023 08:09:34 +0000 https://www.kabuku.io/?p=5276 設計および開発に携わる技術者が身につけておくべき品質管理技術を、『品質の教科書』の著者である皆川一二氏の許可を得て解説する。この本の著者である皆川一二氏は、長年にわたってトヨタの品質管理のスペシャリストを勤め、その経験を […]

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設計および開発に携わる技術者が身につけておくべき品質管理技術を、『品質の教科書』の著者である皆川一二氏の許可を得て解説する。この本の著者である皆川一二氏は、長年にわたってトヨタの品質管理のスペシャリストを勤め、その経験を基に、自動車業界だけでなく広く産業界に普遍的な品質管理の手法を『品質の教科書』にまとめており、技術者必携の書として知られている。

1.設計者は、受注から出荷まですべてのプロセスに関わる俯瞰できる立場にいる

 モノづくりの一連の流れをプロセスとしてみた場合、設計者(設計・開発のプロセス)は、サプライチェーンの中にではなく、エンジニアリングチェーンの初めに近い位置にあることになります(図1)。このような立ち位置にあることから、「設計者はものづくりの現場とは直接関係がない」「設計・開発プロセスはサプライチェーンとは関係がない」、と思われている方もいらっしゃるのではないかと思います。

これは、特に設計・開発業務の主体が製品設計の場合に起こりがちですが、設計・開発プロセスは製品設計だけでなく、工程設計まで行うことが常であり、製品設計と工程設計とは密接に結びつくことを考えると、設計者はむしろサプライチェーンの全体、受注から出荷までの全てのプロセスに関わり、プロセスの流れを俯瞰できる立場にあると言えます。

 「全てのプロセスに関わる」と言っても、設計者がそれぞれのプロセスに直接指示を出す立場にある、ということではありません。設計者の責務は、設計結果というアウトプットを通して、サプライチェーンを構築すること、例えば、設計図面や設計指示書のような文書を通じて、製造部署が行わなければならない作業を決めることですから、たとえ全ての部署について直接指示していなくとも、サプライチェーンの中で、設計結果を満足するようにそれぞれのプロセスが有機的に結びつき、作業を決めていく、というように、結果としてすべての部署に関与している、と言えるでしょう。

 ということは、製品の品質を決める大元の決定は、設計者がしなければならないことになります。第一回で触れた通り、「品質とは顧客満足度」ですから、設計者は顧客の要求を満たすことを第一に業務を遂行しなければなりません。つまり、設計業務の最も重要なインプットの一つは「顧客を満足させる項目」=「顧客要求」である、となります。この顧客要求をいかに噛み砕いて自社のサプライチェーンに展開し、顧客要求を実現させることができるか、ということが、設計者の腕の見せどころになる、と言い換えても良いでしょう。

 

2.重点管理でポイントを抑え、予防管理で不具合を未然に防ぐ

 設計・開発プロセスは、製品について最初の1回だけ行うプロセスである、という認識は間違いではないと思いますが、そのような理想的な状態になることはかなり少なく、現実には、サプライチェーンの現状に対応した変更、顧客の追加要求に対応した変更など、さまざまな外的要因によって、数回の設計変更が生じることの方が多いはずです。このため、設計・開発のプロセスは、設計の変更が生じるたびに実行されることが常であり、プロセスが実行されるたびに、設計の精度は上がり、顧客満足度も向上していきます。

 設計・開発に要求されるアウトプットは、大きく2つあります。

 (1)重点管理すべき項目を明示する

 (2)不具合を未然に防ぐための予防管理項目を示す

 設計・開発プロセスのアウトプットの一つに図面がありますが、図面は、(1)の「重点管理すべき項目」を明示する一つの方法であることは直感的に理解していただけるかと思います。ただ、重点管理すべき項目を示す方法は図面だけに限ったことではありませんし、重点管理すべき項目には、製品そのものについてだけでなく、通常、製造工程についても含まれます。このため、製造仕様書や作業手順書なども、(1)のアウトプットに含まれる、ということになります。

 (2)の「予防管理項目を示す」については、(1)に比べると意識されていない場合が多いのではないでしょうか。設計・開発のアウトプットとして、素晴らしい製品の図面ができたとしても、実際にその製品が製造できなければ意味がありません。実際に、厳しい寸法公差が指定されている場合などは、そのまま製造に移すと、寸法公差外れによる不具合品が多発し、収益性を悪化させてしまうなどの問題が生じるケースもあります。このような問題が生じる可能性は設計・開発段階で認識され、「この寸法は重点管理の対象である」と決めることが多いですが、それに加えて、指定された寸法公差を守るための管理項目を具体的に指定することも設計・開発のアウトプットの一つになります。この例だと、切削加工機の加工速度を落とせば寸法のばらつきが小さくなることから、当該工程での負荷を減らすために投入製品数の上限を決める、などということが該当します。

 予防管理項目を示すためには、関係するプロセスの制約条件を把握しておかなければいけませんが、すべての設計・開発に携わる方が知識を持っているとは限りません。このため、設計・開発のプロセスでは、これらの知識を外部入力として活用するための仕掛けが必要になります。この仕掛けの一つが、次章に述べるデザインレビュー(DR)になります。

 

3.デザインレビュー(DR)は「品質不具合品」を作らないためにある

 DRの考え方は、自動車メーカーの品質管理の手法から発展し、ISO9001にも取り入れられていることから、多くの組織で活用されているのではないかと思います。しかしながら、「デザインレビュー」=「設計審査会議」「開発決定会議」のようなイメージで捉えられ、運用されているケースも少なくありません。これは、Design & Review の邦訳が「設計審査」となっていることも影響しているかも知れませんが、本質は本章のタイトルの通り、品質不具合品を作らないことにあります。

 DRは、設計開発プロセスフロー(エンジニアリングチェーン)の各段階である「企画」「製品設計」「試作」「量産試作」「量産」のそれぞれの移行のタイミングで3回行われます(図2右)。DRの各段階は組織によって様々な呼び方がありますが、ここでは数字を使いDR0/DR1/DR2とします。図を見ていただければ分かる通り、最後のDR(2次DR,DR2)は試作が完了した段階で行われ、これ以降はQA(品質保証会議=設計審査会議)によって進められることになります。

 

 

QAは、「品質問題の残存を無くし、品質不具合品を流出させない」ためにあるプロセスであり、これがDRの中にあるケースも多くあります。このような場合は、DR2の後、量産前にDR3があることになりますが、議論される内容はDRとは異なります。DRでは「なぜそうした設計にしたのかを突き詰める」のに対して、QAでは「DRの結果としての設計がそれで良いかどうかを確認する」ことが目的ですので、この2つを混同しないようにすることが非常に大事です(表1)。

 

4.なぜなぜ分析 〜方法は簡単だが実践は難しい〜

 「なぜなぜ分析」は、その名前の通り「なぜ」「なぜ」を繰り返すことにより、問題の根本原因を追求し、対策に結びつけるための分析手法です。幅広い業務に適用が可能であり、実務としては実際に発生した不具合に対して適用する場合も多い手法です。

 設計・開発においては、DRのインプット情報として扱われ、想定される(予測される)不具合への適用や、行なった試作の中で発生した不具合の根本原因を見つけるために行われることが多いですが、根本原因まで辿りつかないケースも多く見かけます。

 うまくいかないケースは、その一つに「なぜ」「なぜ」を繰り返す前に、事前作業を行なっていないこと、具体的には、なぜなぜ分析の実施手順(図3)のうちで、なぜなぜ分析の本体である手順4より前の、

(手順1)直接原因を把握する

(手順2)時系列事象関連図を作成する

(手順3)(真の)問題点を抽出する

の3つを事前に行なっていないことがその原因と考えられます。なぜなぜ分析は比較的簡単な手法のため、手順1〜3を十分実施せずに手順4をやってしまうことができてしまいます。真の原因にたどり着けない、抽出した原因に腹落ちしない、と感じる場合は、一度戻って該当する手順をしっかりとやり直すことをお勧めします。

 

 さて、なぜなぜ分析のアウトプットは、直接的には「真の原因」および「その対策」になるのですが、そこに至るまでに、途中経過として作成・検討した(例えば、手順2で作成した時系列事象関連図など)も重要なアウトプットになります。なぜなぜ分析は、分析すること全体がアウトプットになる手法であるとも言えます。

 また、実務面では、なぜなぜ分析は個人で行うより複数名、可能なら異なる部署、異なる知識や知見を持つ人たちと行うことが非常に有効です。手順1〜3を進めていくためには、当該事象に関する情報を集めておく必要があり、そのために他部署との接点も出てくると思いますので、それら関係者を巻き込み、体制を作っておくこともお勧めです。

 

参考までに、1986年に発生したスペースシャトル・チャレンジャー事故爆発事故を題材にして、手順1〜3を実施した結果を図4・5に、この結果をもとに手順4のなぜなぜ分析(発生原因についての根本原因抽出)を実施した結果の例を図6に示します。

 今回取り上げた「デザインレビュー」「なぜなぜ分析」は、いずれも活用することで大きな効果を上げることが期待できる手法です。より詳しい解説を希望される方は、冒頭にも紹介した「トヨタ必須の17の品質管理手法を伝授 『品質の教科書』」(皆川一二著、日経BP社)を一読されることをお勧めします。また、皆川氏はこれら品質管理手法についてのセミナーも開催していますので、興味のある方は参考にしてください。

 

奥野技術士事務所 代表
奥野 利明

大学院修士課程(金属工学専攻)修了後、大手鉄鋼メーカーに入社。主に鉄鋼製造の現場において操業技術管理、設備管理、品質管理を担当し、その後、製品企画、プロセス技術開発、技術企画、品質保証業務(QMS品質管理責任者)を経験。2021年に退社し技術士事務所を設立、金属製品製造における品質管理、および航空宇宙製品の品質保証について、現場目線での再発防止の仕組みづくりを積極的に推進している。

現在、公財)新産業創造研究機構の航空ビジネス・プロジェクトアドバイザー、産業技術短期大学非常勤講師を務める。

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設計者に必要な品質管理手法 第一回 品質はなぜ必要なのか https://www.kabuku.io/case/plan/qcmfd-1/ Tue, 24 Oct 2023 04:20:36 +0000 https://www.kabuku.io/?p=5139 技術士の奥野先生による新連載「設計者に必要な品質管理手法」を今回より全3回に渡ってお届けいたします。第一回は「品質はなぜ必要なのか」です。   設計および開発に携わる技術者が身につけておくべき品質管理技術を、『 […]

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技術士の奥野先生による新連載「設計者に必要な品質管理手法」を今回より全3回に渡ってお届けいたします。第一回は「品質はなぜ必要なのか」です。

 

設計および開発に携わる技術者が身につけておくべき品質管理技術を、『品質の教科書』の著者である皆川一二氏の許可を得て解説する。この本の著者である皆川一二氏は、長年にわたってトヨタの品質管理のスペシャリストを勤め、その経験を基に、自動車業界だけでなく広く産業界に普遍的な品質管理の手法を『品質の教科書』にまとめており、技術者必携の書として知られている。

1.品質を知らなくても製品は作れる?

 日本の製造業は、過去50年以上にわたって、連綿と作り上げた「高い品質」を武器にして、世界中で製品を販売してきた歴史があります。しかしながら、足元では、自動車メーカーのリコールに代表される品質トラブルの増加や、品質不正の発生など、かつて日本製品の代名詞であった「高品質」が影を潜めてしまう事態が起こっているのも事実です。

 これは何故でしょうか?この疑問を解決するためには、「品質」とは何か、を紐解く必要があります。「トヨタ必須の17の品質管理手法『品質の教科書』」の著者である皆川一二氏は、これを以下のように言い表しています。

 “品質とは、顧客満足度である”

 この、顧客満足度というのは、数値ではなかなか測ることができないだけでなく、製品の種類などによっても変化します。顧客満足度を高め、高い品質を実現するためには、製品を設計する段階において、顧客の要求を理解し、それを高いレベルで実現することが必要になります。

 「うちは顧客の図面通りに、高い精度を持つ工作機械で製品を作っているから、『顧客の要求』通りに、『高いレベル』で製品を供給できている、大丈夫だ」という声が聞こえそうです。本当にそうでしょうか?(図1)

通常、「顧客の要求」は図面通りに作ることだけではなく、それ以外にも納期や数量などがあります。どんなに安価で優れた製品であっても、いつ納入されるかわからない、要求数量を作ってくれないような会社の製品を顧客は買うでしょうか?また、高い精度で加工できる機械を使っていたとしても、その精度を維持していなければ、「高いレベル」も実現できていない可能性すらあります。

 

このように、品質は顧客要求(=顧客満足度のベース)と密接に結びついており、品質を知らなければ、顧客を満足させられず、結果としてクレームが返ってくる、ということになります(図2)。

 現実には、日本のほとんどのメーカーは、これまで培った経験とノウハウによって、製品を製造できています。その中には、「品質を知らなくても製品が作れてしまう」状況にある会社もあるのではないかと感じます。もし、品質=顧客満足度を高めるための方策を知り、それを活用するならば、品質不正も製品の不具合の発生も今よりももっと少なくなっているでしょう。

 

 

2.品質は顧客満足度のキーファクター

品質を高めるためには、顧客満足度を高めなければなりません。簡単なようですが、顧客が何を持って満足するかを見極めなければなりません。「顧客の要求を守る」ことは最低限の決まりであって、それだけで顧客の満足が満たされるとは限りませんし、世間を騒がせている品質不正問題は、顧客要求を守っていないことが原因の一つでもあるのですから、この最低限の決まりですら守られていない場合もある、ということは認識する必要があります。

 このような状況になっている要因の一つとして、自動化の進展があります。自動化そのものは、人件費を含めた管理コストを削減し、かつ安定した高い精度を保つために必要不可欠な技術的進歩であり、多くの会社がその恩恵を享受していますが、自動化によって当初の課題がすべて解決しているわけではなく、自動化を行うことで新たに生じる保全や管理のコストがあることを忘れてはなりません。

 具体例で言えば、寸法計測工程を自動化して寸法計測を行う作業員の負荷を無くした場合、自動化された寸法計測工程を監視する手段を持たなければ、自動化した寸法計測工程にトラブルが発生し、誤った寸法の製品が流出してしまい、トラブルに発展する可能性を排除できません。作業員が寸法計測を行なっていた場合は、作業員が自らチェックしてこのようなトラブルの発生を防止できる体制があったと考えれば、この「自動化された寸法計測工程を監視する手段」が、自動化によって要求される新たな品質管理ということになります。

 歴史的に見ても、自動化の進展、工業化の発展に伴い、作業員の関わる範囲は時代と共に大きく変化し、作業員に求められるスキルも上昇しています。同様に、作られる製品についても、より多くの人に満足してもらえるように、機能が進化するとともに、製造コストも下がってきています。つまり、顧客満足度は、製品をより多くの人に使ってもらうために、製造者が必ず考慮しなければならないファクターとなり、それを向上させることが、製品の(狭義の)品質の向上につながっている、と捉えることもできます。

 

3.品質管理の本質8項目

品質管理の本質8項目とは、図3に示す、「ファクトコントロール、ばらつき管理、重点志向、プロセス管理、再発防止、未然防止、標準化、管理のサイクル」の8つを指します。これらのキーワードで、品質管理というのは、製造や生産部門だけでなく、設計開発部門、営業や調達などの間接部門を含むものづくりのすべての領域に関連することがわかってもらえると思います。ISO9001などの品質マネジメントシステムには、これらの8項目がその基本的な概念に入っています。

おそらく日本の会社の中で品質管理を行っていない会社はないのではないかと思いますし、品質管理課のように、品質管理を担当する組織がある会社も多いでしょう。ところが、品質管理課は、出荷製品をチェックする部署である、検査をやっている部署である、と言う認識の方が多いのではないかと思います。また、「品質管理は品質管理課の社員に任せておけば良い、自分の部署には直接関係がない」と思われている方も同じように多いように感じます。

日本のものづくりは品質管理を極めることによって発展してきた事実を考えると、「日本では、会社のすべての部署で、それぞれの部署で必要な品質管理をきちんと行ってきた」のだ、と考えても良いと思います。この「それぞれの部署で必要な品質管理」とは、

・顧客の要求(目標)を明確にし、

・顧客満足度(達成度)をチェックして、

・必要な処置を行う

の3点です(図4)。これらは、品質管理とは別に、通常行われている「管理」と基本的には同じであり、「品質」を「顧客満足度」に言い換えているだけであることがわかっていただけるかと思います。

本稿のタイトルである「設計者に必要な品質管理手法」とは、何らかの具体的な方法というよりは、現在取り組んでいる業務の中で、品質管理の本質8項目を、上記の3点を踏まえて具体的に取り入れること、と言っても良いでしょう。

 

 「次工程はお客様」というように言われている会社や職場もあると思いますが、本節で触れた「顧客満足度」の「顧客」には、この言葉の通り、最終顧客だけでなく次工程も含まれます。このため、設計者においては、製造プロセスチェーン(原材料から製品までの工程順)の中で、自分の業務のアウトプットはどこのプロセスに影響するか、ということを常に念頭におき、品質管理8項目の中から、実務にあった具体的な品質管理方法を検討し実施することが必要です。

 品質管理8項目の具体的な内容については、必要な部分について次回以降解説していきますが、内容を先に把握したい方、より詳しい解説を希望される方は、冒頭にも紹介した「トヨタ必須の17の品質管理手法を伝授 『品質の教科書』」(皆川一二著、日経BP社)を一読されることをお勧めします。

 

奥野技術士事務所 代表
奥野 利明

大学院修士課程(金属工学専攻)修了後、大手鉄鋼メーカーに入社。主に鉄鋼製造の現場において操業技術管理、設備管理、品質管理を担当し、その後、製品企画、プロセス技術開発、技術企画、品質保証業務(QMS品質管理責任者)を経験。2021年に退社し技術士事務所を設立、金属製品製造における品質管理、および航空宇宙製品の品質保証について、現場目線での再発防止の仕組みづくりを積極的に推進している。

現在、公財)新産業創造研究機構の航空ビジネス・プロジェクトアドバイザー、産業技術短期大学非常勤講師を務める。

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設計者が知っておきたいプラスチックの材料特性 第8回:プラスチックの応用特性(2) https://www.kabuku.io/case/plan/material-characteristic_plastics-8/ Fri, 15 Sep 2023 02:17:06 +0000 https://www.kabuku.io/?p=5033 <目次> はじめに 劣化 耐薬品性   1.はじめに 今回は8回連続講座の最終回です。応用特性の2回目として、劣化、耐薬品性について解説していきます。 2.劣化 プラスチックは金属材料のように腐食しないことが大 […]

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<目次>

  1. はじめに
  2. 劣化
  3. 耐薬品性

 

1.はじめに

今回は8回連続講座の最終回です。応用特性の2回目として、劣化、耐薬品性について解説していきます。

2.劣化

プラスチックは金属材料のように腐食しないことが大きなメリットです。一方、金属材料にはない劣化というやっかいな欠点を持っています。劣化とは特性に有害な変化を伴うプラスチックの化学構造の変化※1のことです。図1に示すように劣化の要因には様々なものがあります。その中でも熱、水分、紫外線の3つは身の回りのどこにでも存在するため、すべてのプラスチック製品が何らかの劣化の影響を受けると考えておく必要があります。劣化は時間をかけて進行していくため、特に長期間使用する製品は、劣化による材料特性の変化について十分に検討することが重要です。

図 1 プラスチックの劣化要因

劣化するとプラスチックに何が起きるのでしょうか。劣化の条件によって異なるものの、主に分子鎖の切断、架橋、発色団※2の生成が起き、材料特性の変化や変色などを生じます。

図 2 劣化で起きること

分子鎖の切断は分子量の低下を引き起こします。分子量が低下すると引張強さや耐衝撃性など、様々な機械特性が低下します。劣化により劣化生成物が生じると水分を吸収しやすくなり、体積抵抗率、絶縁破壊の強さといった電気絶縁性が低下します。したがって、劣化はプラスチック部品を使っている電気・電子機器の寿命に大きな影響を与えることになります。また、微小クラックにより白化や光沢度の低下を引き起こすため、外観上のトラブルにもつながります。発色団が生成されると、黄変やピンキングなどの変色を起こします。プラスチックに含まれる配合剤や排気ガスなどとの反応により変色することもあります。

図 3 劣化の影響

劣化を完全に止めることは不可能です。したがって、使用環境条件を明確化し、その条件における適切な材料や配合剤の選定、寿命予測を行うことにより、耐用期間において品質トラブルが起きないように設計をすることが不可欠です。

 

3.耐薬品性

 プラスチックと薬品の組合わせによっては、クラックや外観不良などの品質トラブルに発展します。薬品による影響は、薬品がプラスチックの内部に浸透・拡散することによって生じます。浸透・拡散した薬品は膨潤・溶解を引き起こすことがあります。膨潤・溶解により寸法や質量が変化したり、機械特性が低下したりします。一般に似ている物質同士は混じり合いやすいといわれています。プラスチックと薬品も性質が似ている場合、膨潤・溶解を起こす可能性が高いといえます。性質が似ているかどうかを示す指標の一つがSP値(溶解度パラメータ)です。SP値はプラスチックや有機溶剤などの分子間力を示す指標です。プラスチックと薬品にはそれぞれ固有のSP値があり、それらが近い値の場合、膨潤・溶解などが生じやすくなります。エステル結合やアミド結合などを持つプラスチックは、アルカリ溶液によって加水分解が急速に進行し、強度低下などを引き起こします。また、多くのプラスチックは強酸の影響を強く受け、分子構造が分解されます。

図 4 薬品の影響

プラスチックは、ひずみ(応力)が生じた状態で薬品類が付着すると、通常の材料強度よりもはるかに小さなひずみ(応力)でクラックを生じることがあります。このような現象をソルベントクラックといいます。非晶性プラスチックで発生することが多い現象です。ひずみがなければ何の問題も起こさない薬品類で生じるため、とてもやっかいです。ソルベントクラックは延性材料でも脆性的な破壊形態を示し、破断面はピカピカ光る鏡面状になることが特徴です。

図 5 ソルベントクラック

 ソルベントクラックを防ぐ方法は、ひずみ(応力)の低減、薬品類の接触防止、耐薬品性の高い材料の選定、の3つです。ひずみは成形、組立など様々な場面で生じる可能性があります。接合方法を工夫したり、アニール処理※3を実施したりすることによりひずみを低減します。薬品類が接触しなければソルベントクラックは発生しません。締結用ネジに付着した潤滑油をきれいに除去することや表面被覆により薬品類が接触しないようにすることも対策になります。さらに結晶性プラスチックや耐薬品性の高いグレードを選定することも一つの選択肢です。

図 6 ソルベントクラックの対策

「設計者が知っておきたいプラスチックの材料特性」の8回連続講座、いかがだったでしょうか。プラスチックは様々な要求に応えてくれる非常に面白い材料です。一方、知らないと品質トラブルを招きかねない、いろいろな特性を持っています。本講座で触れることができなかった特性もまだまだありますので、ぜひ、興味を持って学び続けていただければと思います。

 

<参考資料>

※1 JIS K6900:1994 「プラスチック-用語」

※2 カルボニル基など変色の原因となる分子構造。

※3 製品を高温下で一定期間保管することにより、残留ひずみ(応力)を低減させる方法。

田口技術士事務所 田口 宏之  

たぐち ひろゆき:大学院修士課程修了後、東陶機器㈱(現、TOTO㈱)に入社。12年間の在職中、ユニットバス、洗面化粧台、電気温水器等の水回り製品の設計・開発業務に従事。商品企画から3DCAD、CAE、製品評価、設計部門改革に至るまで、設計に関する様々な業務を経験。特にプラスチック製品の設計・開発と設計業務における未然防止・再発防止の仕組みづくりには力を注いできた。それらの経験をベースとした講演、コンサルティングには定評がある。また、設計情報サイト「製品設計知識」やオンライン講座「製品設計知識 e-learning」の運営も行っている。

「製品設計知識」:https://seihin-sekkei.com

「製品設計知識 e-learning」:https://seihin-sekkei.teachable.com

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全8回に渡って技術士の田口先生による連載「設計者が知っておきたいプラスチックの材料特性」を掲載いたします。第7回は「プラスチックの応用特性(1)」です。

 

<目次>

1.はじめに

2.粘弾性特性

3.クリープ

4.応力緩和

 

1.はじめに

前回まで物性表に掲載されるようなプラスチックの基本特性を解説してきました。今回からはプラスチックの応用特性について見ていきます。プラスチックの応用特性は金属材料では注意する必要がないものが多いといえます。しかし、プラスチック製品の設計においては、これらの特性を知らないと品質トラブルに直結してしまいます。今回は応用特性の1回目として、粘弾性特性について解説します。

 

2.粘弾性特性

粘弾性特性とは弾性と粘性の性質を併せ持つ特性のことです。金属材料では高温下でのみ現れますが、プラスチックは室温でも顕著な粘弾性特性を示します。したがって、プラスチック製品は高温下で使用されない場合でも、粘弾性特性を踏まえた設計を行う必要があります。

 

棒材を引っ張ったときを例に粘弾性特性について考えてみましょう。棒材を引っ張ると変形します。このとき荷重の大きさに比例して変形量が大きくなるような性質を弾性といいます。弾性の性質を持つ材料は変形が時間に依存しません。したがって荷重を与えると即座に変形が完了し、荷重を取り除いた直後に元の長さに戻ります。ばねの変形をイメージすればよいでしょう。材料力学で使用される強度計算式は、材料が弾性の性質を持つことを前提に導かれています。一方、棒材を引っ張ったとき、即座に変形が完了するのではなく、時間をかけて変形が進むような性質を粘性といいます。変形が時間に依存し、荷重を取り除いても元に戻りません(永久変形が残る)。焼いた餅を引っ張った状態をイメージしてみてください。このような弾性と粘性の両方の性質を併せ持つ特性が粘弾性特性です。

図 1 プラスチックの粘弾性特性

 

粘弾性特性があることによって、金属材料ではあまり注意する必要のない現象について十分な評価が必要になります。まず、変形速度の違いによって材料特性が変化することです(図2-①)。変形速度が速いほど応力-ひずみ曲線の傾きは大きく、伸びが小さくなります。変形速度が遅くなると、反対に傾きが小さく伸びが大きくなります。引張試験などでも試験片を引っ張るスピードが変わると、材料特性が大きく変わるため注意が必要です。粘弾性特性によって生じる現象の代表格が図2-②のクリープと図2-③の応力緩和です。これらについては後で詳しく解説します。降伏点のない金属材料では、一定の永久ひずみ(0.2%など)を生じる応力を耐力として定義しています。耐力は降伏応力の代わりに強度設計を行う際の基準強度として用いられています。プラスチックには粘弾性特性があるため耐力の測定が難しくJIS※1では定義されていません。

図 2 粘弾性特性による影響

3.クリープ

図3を使ってクリープについて解説していきます。天井に固定された棒材は、おもりを乗せた直後、その重さに相当するだけのひずみε0を生じます。このε0は弾性の性質から現れる変形です。時間が経過すると棒材のひずみは徐々に大きくなります。そして、t時間後には元々のひずみε0に加えてεtのひずみを生じます。このεtは粘性の性質から現れる変形です。このように時間の経過とともにひずみが大きくなっていく現象をクリープといいます。ひずみは遷移クリープ、定常クリープを経て増加し、高応力、高温の場合、3段階目の加速クリープでひずみが一気に増加し、最終的に破断に至ります。

図 3 クリープ

 図4は主なプラスチックの常温における引張クリープ破壊応力です。温度一定のもとで試験片に応力を与え、クリープにより破断するまでの時間を測定します。応力を変えながら測定数を増やしていくと、プロットした点は一直線上に乗ってきます。グラフの直線を伸ばしていけば長期的な耐クリープ性を確認することができます。ただし、耐クリープ性の評価には大変な負荷がかかり、試験結果のばらつきも大きいため、高い精度で評価を行うことは容易ではありません。プラスチック製品では、常時荷重をできるだけ避ける設計を行うことが望ましいといえます。

図 4 プラスチックの引張クリープ破壊応力(常温)

 

4.応力緩和

図5のように天井に固定された棒材に一定のひずみを与える場合を例に応力緩和について考えます。最初、棒材下側は固定されていない状態であるため、応力は発生していません。この棒材をフックで地面に引っ掛けε0のひずみを与えると弾性の性質により応力σ0が生じます。時間が経過すると粘性の性質により応力が低下し、t時間後には応力がσtになります。フックの位置は変わらないため、ひずみε0に変化はありません。このように棒材にひずみを与えたとき、時間の経過とともに応力が小さくなっていく現象を応力緩和といいます。これもクリープと同じく材料の粘弾性特性に起因する現象です。曲線は対数グラフにすると直線状になります。

図 5 応力緩和

プラスチック製品では、スナップフィットやプレスフィット(圧入)、ネジ、ボルトなど、一定の応力を維持することによって、機能を発揮させる構造が数多くあります。このような構造では、応力緩和によって嵌合力が不足したり、ネジが緩んだりといったトラブルが生じることがあります。最低限必要な荷重や応力を明確にし、耐用年数まで維持できるかどうかを確認することが重要です。クリープはひずみの増加、応力緩和は応力の低下ですので、全く別の現象のように見えます。しかし、これらは粘弾性特性に基づく現象であり、同じ特性を違う視点から見ているにすぎません。したがって、クリープしやすい材料では応力緩和も起こりやすく、クリープを促進する条件では応力緩和も促進されます。クリープと同様に応力緩和の評価も大変な手間がかかります。可能な限り常時応力が生じるような構造は避けることが無難です。

 

次回は応用特性の2回目として、劣化、耐薬品性について解説していきます。

 

<参考資料>

※1 JIS K7161-1:2014 「プラスチックー引張特性の求め方-第1部:通則」

田口技術士事務所 田口 宏之  

たぐち ひろゆき:大学院修士課程修了後、東陶機器㈱(現、TOTO㈱)に入社。12年間の在職中、ユニットバス、洗面化粧台、電気温水器等の水回り製品の設計・開発業務に従事。商品企画から3DCAD、CAE、製品評価、設計部門改革に至るまで、設計に関する様々な業務を経験。特にプラスチック製品の設計・開発と設計業務における未然防止・再発防止の仕組みづくりには力を注いできた。それらの経験をベースとした講演、コンサルティングには定評がある。また、設計情報サイト「製品設計知識」やオンライン講座「製品設計知識 e-learning」の運営も行っている。

「製品設計知識」:https://seihin-sekkei.com

「製品設計知識 e-learning」:https://seihin-sekkei.teachable.com

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